前半はこちら→橘菊太郎・龍美麗インタビュー 前半

日替わり演目の是非とは

ガイド:大衆演劇界は衣装とか音楽面はすごく目まぐるしく変化していると思うんですけど、興業ビジネスとしてはシステム面で変化が遅れてしまっている部分がある気がしています。

菊太郎:一概には言えないでしょうが、前に浅草で公演した時にそこの社長から「1カ月同じ演目でやってくれ」って言われたんですよ。

僕は「大衆演劇でそれは無理です。毎日演目を変えないとお客さん来ないですよ。」って反対したんですけど「初め減ってもいいんだ。その分いい内容のものをやってくれたら結果的には絶対増えるから。」って押し切られちゃったんですね。

ガイド:大衆演劇の常識からするとすごく冒険ですよね。結果はいかがだったんでしょうか?

菊太郎:3日目、4日目までは「え?またこの演目?」みたいな反応だったんですが、どんどん「今日は歩き方が違ったね」、「小物の使い方が変わったね」と細かい変化に気付いて喜んでくれるお客さんが増えてきたんですよ。興行成績も悪くなかった。

ガイド:現代劇や歌舞伎を観に行くような感覚で観てくれる人が増えてきたんですね。

菊太郎:僕にとっては「こんなことが出来るんだ」っていう大きな発見でしたね。
美麗もこの前、スーパー歌舞伎『空ヲ刻ム者』に出て同じことを経験したと思いますけど。
alt=""

 

ガイド:『空ヲ刻ム者』では市川猿之助さんや佐々木蔵之介さんと共演されて話題になりましたね。2014年3月が新橋演舞場(東京)、4月が大阪松竹座(大阪)という大規模な公演でした。

美麗:僕も固定の場所で1カ月同じことをやるのは初めてでした。しかも歌舞伎。何回も観に来るお客さんはみなさん細かい違いや変化を観るためにやってくるから気が抜けません。自分が普段やっている大衆演劇にもどんどん活かせるいい経験ができました。

ガイド:毎日違う演目をやるか、同じ演目をやるか。違いは大きいでしょうね。
どちらがいいと言うことは言い切れないと思いますが、自由にできる劇団がもっと増えればお客さんの層ももっと厚くなると思います。


美麗:いろんなことに一長一短あると思いますけど、時代ややりたいことに合わせて常識にとらわれずにやっていきたいですね。


お酒を通じたコミュニケーション術

alt=""

 

ガイド:菊太郎さんはプライベートでの趣味はどんなものがありますか?


菊太郎:お酒ですね。別に好きってわけではないんですけど、ふだん僕と劇団員たちって24時間一緒にいるじゃないですか。やっぱりたまには上の者抜きの時間を作ってあげないと息苦しいと思うんですよ。

ガイド:本人たちは言いにくいだろうけど、確かにあるでしょうね。

菊太郎:あとやっぱり一番のリフレッシュって外でお酒飲んで馬鹿することですよね(笑)

ガイド:芸事をする人間にとって切り替えって大事ですもんね。ストレス解消だけじゃなくて、そこから新しい発想にもつながるだろうし。菊太郎さんはどんなお酒が好きなんですか?

菊太郎:前はブランデーだったんですけどウイスキーになって今は焼酎ですね。

ガイド:翌朝残りにくいからですか?

菊太郎:そうですね。それと、きついお酒は無理でも焼酎なら割り方次第で飲める人って多いじゃないですか。どうせなら同席した人みんなで飲みたいから。

ガイド:飲みに行くときは一人より人を誘って行くことが多いですか?

菊太郎:一人飲みはあんまりないですね。

美麗:イメージないですね。

菊太郎:先輩でも後輩でも一緒に飲んで喋ってるとなにかプラスがありますよね。酔わないと本音が出てこない人っていますし。人の本音や意見を知ることは本当に勉強になるし、自分を見つめなおすきっかけにもなります。

ガイド:美麗さんも菊太郎さんとはよく飲みに行かれるんですよね?

美麗:ついこないだ本音を喋ったところです(笑)

後輩だから普段は遠慮もあるけど、お酒が入れば少しずつ感情を出していけますよね。菊太郎総座長はそれがわかっていただける方だから嬉しいです。


上に立つ者として責任ある教育を

ガイド:風通しのいい上下関係を持てる人って少ないですもんね。菊太郎さんは劇団の主宰者としてもいろんなご経験をされてきたと思いますが、上に立つ者として心掛けていることはありますか?

菊太郎:たとえばあるルールがあるとして、上の者は下の者に対してそれを「守らなくちゃいけないよ」って立場を貫かなくちゃいけないと思うんです。
ちょっとズルしてるのを知らないふりしてる分にはまだいい。でも「守らなくてもいいよ」ってなっちゃうと完全におかしくなる。

家庭の話になるけど、未成年の喫煙とかもそうですよね。「いいよ」って言っちゃう親はダメですよ。

ガイド:なんでもありになっちゃいますよね。

菊太郎:親が親とも思われなくなっちゃうんです。甘やかすのと親しくするのは全然違いますからね。

ガイド:菊太郎さんはまさに“橘劇団のお父さん”ですものね。親子関係で説明されるととてもわかりやすいです。


読書を通じた芸の広がり

ガイド:菊太郎さんが先になりましたが、次は美麗さんの趣味をお聞きしたいと思います。

美麗:僕も……お酒は好きですね。ストレス解消にもなるし、人と喋って自分の知らないことを知れるし。あとは読書とか映画鑑賞も好きです。

ガイド:本はどんなものを読まれますか?

美麗:小説、マンガ、週刊誌……なんでも読みますね。暇さえあれば何か読んでるんで、月の本代ってけっこうな額になると思います。11、2歳の頃、うちの劇団に手伝いに来ていただいてた大先輩が勧めてくれたんです。

「本を読みなさい。良いことも悪いこともいっぱい書いてるから、それを判断できるようになりなさい」って。

ガイド:読書を通じて得たさまざまな知識が美麗さんの独特の個性を作っているんでしょうか。美麗さんはこれまでの大衆演劇の枠にとらわれず、どんどん新しいことにチャレンジしているイメージがあります。
alt=""

 

美麗:それはあると思います。宙づりとか新しいことにチャレンジするのは祖父(初代 南條隆)以来の伝統でもありますからね。

読書でもいろんなものを知りましたが、演劇でも劇団新感線さんを初めて観た時は衝撃でしたね。「こんなお芝居もアリなんだ!?」って……概念を打ち砕かれるって言うか。

ガイド:大衆演劇ではないけど、やっぱり若い世代としては見逃せないところですね。バンバン斬新なアイデアを実現されている美麗さんですが、お父上(二代目 南條隆)と意見がぶつかることはありませんか?

美麗:父は「新しい世代のお客さんたちにはお前たちの感性の方が合うはずだ。ただ、芝居としてあまりにおかしい時は俺が言う」ってスタンスなんです。

結果的にけっこう自由にやらせてくれてますよ。ふだん自由にやらせてくれてる分、口を出される時は「あぁ、本当にダメなんだな」って素直に聞けます。


美麗 父との関係

ガイド:お父上との関係っていかがですか? 美麗さんはお父上が40代になってからの子供ですが、僕も同じような感じなんです。年代が離れすぎてるせいかどうかはわからないけど、くだらない会話ならできてもどこか一線があって真剣な会話ができないんですよね。

美麗:うちも親子関係以外に、経営者と現場に立つ座長っていう関係があるから複雑ですよね。

ガイド:芸の上では理解のあるお父上だということですが、ほかの面でぶつかり合うことってありませんか?

美麗:反発することがないと言えば嘘になります。ここ1、2年はマシになってきましたけど。

菊太郎:昔は本当にあったと思いますよ。隆さんにしても遅くなってからの子供だから、なかなか厳しくできないところがあったんじゃないかな。さっきの親子関係の話じゃないけど、成長する過程でこじれてしまったんでしょうね。

僕は後継者の橘大五郎に対してほんとうに厳しく稽古をつけてきましたけど、それを見た隆さんに「菊ちゃん、大五郎があんたの息子だったらこれほど厳しくできるか?」って言われたことがあるんですよ。

ガイド:難しい部分ですよね。子供たちが可愛くて仕方なかったんでしょうね。

菊太郎:僕なら自分の子供には余計厳しくするでしょうけどね(笑)。でも隆さんが美麗たちにそそいできた気持ちがわかるから、僕もこのスーパー兄弟は本気で応援して支えていきたい。

昔から人気を集めてる有名劇団ですから、それを維持していくだけでもすごいプレッシャーがあると思います。

ガイド:今、お父上と二人で飲みに行かれることってありますか?

美麗:けっこうありますよ。とりとめのない会話しかしないですけど、それでも何かの親孝行になってるんじゃないかなと思ってます(笑)


ご祝儀と大衆演劇

菊太郎:小料理屋の飲み方、スナックの飲み方、クラブの飲み方、キャバクラの飲み方ってそれぞれ変わってきますね。満足の仕方って言うか。タバコの火のつけ方にしても水割りの作り方にしても、店の格が高いとされるほど求めてしまう。あんまり良くないんでしょうけどね。

ガイド:お金払う分、当然なんですけどね。菊太郎さんの場合、そこに経営者目線も加わってしまうでしょうから純粋に楽しめないことはありそうですね。

菊太郎:この前、義兄に「最近、飲み屋が面白くない」って話したんですよ。そしたらなんて言われたと思います?「あんたが気に入った女の子がいないだけだろ」って(笑)

一同:(笑)

菊太郎:たしかに"可愛いから一緒に飲みたいな”って子がいたら細かいことはどうでもよくなっちゃうんですけどね(笑)

ガイド:お芝居を観に来るお客さんにとっても、そういうことってあるのかもしれないですね。

菊太郎:ほんとにそう。うちにしても座長がいて副座長がいて花形がいて他のみんなもいて……それぞれどんな芝居を見せてくれるのかってことでしょ。そういうのを研究するためだと言い聞かせて僕はお酒を飲みに行ってる(笑)

美麗:飲み屋にたとえるとわかりやすいけど、怖さがありますよね。大衆演劇でも入ったばかりの座員ならまだしも座長とかベテランクラスになると「出来てあたり前だろ。そこから先に何があるの?」って見られるわけだから。

ガイド:でも菊太郎さんや美麗さんの場合だと大衆演劇の1500円や2000円のチケット代で観られるのはすごくお得ですよね。コストパフォーマンスが良すぎる。

菊太郎:まともに考えたらやっていけません。正規のギャラでこれだけの舞台道具をそろえて生活もやっていくのは無理です。

美麗:ビジネスとして考えたらこんなバカな商売ないと思います。

ガイド:音響、照明はもちろん一着数百万円の着物もあたり前ですもんね。入場料から得られる利益って、一日二部で満員にしてもせいぜい数十万円でしょう。

菊太郎:僕、役者し始めてまだ全然何もできない頃から応援してくれてるお客さんがいるんです。その方がいつもご祝儀を出してくれるんですけど
「あんたに渡したお金なんだからどう使おうと自由だ。でもそのうちの5000円でもいいから扇子なり買ってお客さんにいいものを見せてあげなさいよ」って言ってくれるんですね。

ガイド:「私に見せてね」って言うお客さんは多いけど、そういう方もいらっしゃるんでうね。

菊太郎:いるんですよね。だから少しでもそこに報いられるようにしたいと頑張れるんですね。

ガイド:ご祝儀、いわゆる"お花”があるからこそ現在の大衆演劇が成り立っているという現実は無視できないですよね。


菊太郎 経営者、プロデューサーとしての視点

ガイド:菊太郎さんは大分のごく小さな劇団たった一代で全国区に成長させ、さらに後継者として橘大五郎という大スターを育て上げられました。大衆演劇界広しと言えども菊太郎さんほどの経営能力やプロデュース能力をお持ちの方は少ないと思います。

菊太郎:ありがとうございます。たしかに僕は舞台をお休みしている時も劇団の運営に関する仕事をしています。

美麗:たとえば大五郎座長は純粋に"役者"なんですよね。自分のしたい芸をするためならかかるお金の面はどんぶり勘定かもしれない。でも菊太郎総座長は経営者としていろんな無駄を省いて劇団の利益を増やしていく。これはちゃんと社会人を経験している人ならではの感覚だと思います。

菊太郎:例えば1万円というお金。1万円って世間では一日一生懸命働いて頭を下げてようやく手にできる金額なんですよ。そういう額のお金を、僕たち役者はご祝儀としてどんどんもらっちゃう。1万円もらうっていうのがどういうことかをよく考えないといけないですよね。

ある時、舞台じゃない場所で素顔でおばあちゃんのお客さんにご挨拶したことがあったんです。おばあちゃんは僕にご祝儀をくれようとするんだけど、財布の中に5000円札1枚と1000札1枚だけしか入ってないのが見えちゃったわけ。それでも5000円を渡してこようとする。

僕は「いいよ、いいよ!」って言ったんだけど「気持ちだから」って言われると断り切れなくてね……そのお金があればタクシーで帰ったり食事したりもできるだろうにと思うとなんとも言えない気持ちになりました。あれは忘れられないです。

ガイド:お金の重みを考えられる感覚があるからこそ堅実な経営ができるんでしょうね。

菊太郎:正直なところいただいたご祝儀をそのまんまパチンコに使ってしまう時もあるんですけどね(笑)

一同:(爆笑)


菊太郎の目標

ガイド:菊太郎さんの今後の目標ってなんでしょうか?

菊太郎:自分としては大五郎のやりたいことをやらしてあげるのが一番の目標。さっきも言ったように、マスターベーションじゃなくてそれにかかるお金の重みをきちんと理解してくれさえしたらね。照明でも舞台装置でも好きなものを使わせてやりたい。
alt=

 

あとは大衆演劇全体の底上げですね。「俺が俺が」じゃなくてみんなが良くなるように協力していけるきっかけになりたいですね。


美麗の目標

ガイド:美麗さんの今後の目標を聞かせてください。

美麗:会派で垣根のできがちな大衆演劇界の架け橋になりたいとかいろんな目標があるんですが、まずは菊太郎総座長に言っていただいたように、僕たち兄弟二人ががっちり手を合わせて頑張っていけるようになりたいです。その上で橘劇団とコラボする展望もあって……。

ガイド:どんなコラボでしょうか?

それぞれの選抜メンバーで『まぼろし座』って劇団を結成して3日替わり10演目のショーで1か月公演。質の高い面白いものができるんじゃないかと思って実現を楽しみにしてるんです。3年くらい前から考えてるのになかなか実現しないんですけど(笑)

ガイド:これは両劇団のファンにとってはたまらない計画ですよね。まさにスーパー大衆演劇!それぞれスケジュールもあって大変だとは思いますが、ぜひ実現させてください。


※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。