オペラに描かれる恋愛の難しさ
オペラに学ぶ恋愛
愛をテーマに作品を生み出してきた作曲家は数知れず、特にロマンチックな恋愛、恋人との精神的、肉体的な絆は永遠のテーマです。例えば、シェークスピアのロミオとジュリエットを基にしたセルゲイ・プロコフィエフやピョートル・チャイコフスキーの作曲は、オーケストラに雄弁に愛を語らせています。
『オルフェオ』
オペラにおいては、ほとんど全作品の中で愛が語られています。歴正史上初のオペラ、オルフェオでは、神話的で超自然的ともいえる舞台で、プラトニックな愛の物語が繰り広げられます。蛇に噛まれて亡くなった妻エウリディーチェを救うために黄泉の国にまで飛び込んでいくオルフェオは、愛の具現化と言えるでしょう。彼は完璧な恋人であり、人間のみならず、動物や石なども感動させるような詩人でもあります。オルフェオは、物質的な世界と精神世界、夢と現実、生と死を区別せずに恋人に尽くし、地上世界に戻るまで決してエウリディーチェを振り返らないという条件で、ついに妻を救い出します。
しかし、オルフェオは、この条件を守れず妻を見てしまい、エウリディーチェは霧の中に消えてしまいます。この作品は、1607年に、イタリア、マントヴァのカーニバルで上演され、観客に強い感銘を与えたため、歴史上初のオペラとして語り継がれています。録音で最もお勧めなのは、K617というレコード会社から出ている指揮者ガブリエル・ガリドのバージョンです。
『ディドとエネアス』
『ディドとエネアス』は、ヘンリー・パーセルの傑作で、カルタゴの女王ディドとトロイの王子エネアスの恋を描いています。トロイ戦争に敗れ、神の呼びかけにより新しくローマと言う都市を築くために旅出つ宿命を背負ったエネアスは、漂着したカルタゴでディドと恋に落ちます。しかし、ディドは、ローマを目指して出立する恋人との別れに絶望し、最後には死んでしまします。このオペラは、劇的でメランコリックな音楽に彩られ、特に恋人を失ったディドの悲嘆の叫びが心に響きます。
この作品で、最もお勧めしたいのが、クリストファー・ホグウッド指揮、エンシェント室内管弦楽団演奏のバージョンです。イギリス人であるホグウッドは、祖国の音楽を知り尽くしており、この録音では完璧な演奏が楽しめます。
史上最高のカウンターテナー、アルフレッド・デラーは、パーセル作品を沢山歌っており、特にディドとエネアスには特別な愛着を抱いていました。彼は、その美声(カウンターテナーは女性の声にも匹敵する高音域)について、「あなたはeunuch(去勢された男性)なのですか」と 質問をされたとき、イギリス風のユーモアを持ってこう答えました、「いいえ、私はunique(唯一無二)なのです」。
『愛の妙薬』
天才的な作曲家ドニゼッティは、『愛の妙薬』で一味違う愛の解釈を披露しています。この作品では、愛は喜劇とともに語られますが、恋に落ちたネモリーノが歌うアリア『人知れぬ涙』 はあまりにも有名です。ネモリーノは、好きな人(アディーナ)の心を奪えるという妙薬を騙されて買います。妙薬は、ただのワインだったため、彼は酔っぱらってしまいますが、最終的にはアディーナと結ばれます。ネモリーノは知的な人物でも、詩人でもなく、田舎の謙虚な男性で、純粋さとその深い心から愛を語ります。パバロッティは、この田舎のロミオともいえる人物を誰よりも上手く表現し、長い間歌い続けました。
『ランメルモールのルチア』
同じくドニゼッティが作曲したランメルモールのルチア は、ウォルター・スコットの小説『ラマムアの花嫁』が原作、スコットランドを舞台にしたドラマで、恋人同士である エドガルドとルチアの決して結ばれない愛を表現しています。指輪の交換、決闘、墓地での喧嘩など劇的な出来事に彩られ、最後には、ルチアの死を知ったエドガルドが自殺します。『ランメルモールのルチア』は、ドニゼッティの作品中、『愛の妙薬』の次に公演数が多い作品です。ディーバのイメージを裏切り、実際には役中人物と同様に繊細な心の持ち主であったマリア・カラスが、ルチアの一番のはまり役とされています。特に、1955年に、ミラノのスカラ座で、カラジャンの指揮でジュゼッペ・ディ・ステーファノと共演したバージョンは一聴の価値があります。
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