時代の犠牲になった作曲家

ピエトロ・マスカーニ(1862-1945)は、真実主義屈指の名作『カヴァレリア・ルスティカーナ』で有名な作曲家です。真実主義とは、リアリズム文芸運動とも呼ばれ、19世紀末から20世紀初めにかけてイタリアで流行しました。オペラにおいては、現実的な感情表現を表し、物語的要素を排除した作品を生み出しました。

マスカーニは、ムッソリーニに『ネローネ』と言う作品を捧げ、独裁政権の音楽家とみなされたため、ムッソリーニ失脚後には無一文となり、ローマのプラザホテルで絶望と貧困に喘ぎながら息絶えました。17のオペラ作品を後世に残しましたが、世界的に有名なのは 『カヴァレリア・ルスティカーナ』と『友人フリッツ』のみです。まさに時代に翻弄された作曲家の作品の内、今日は皆さんに『イリス』を紹介したいと思います。


もう一つの日本オペラ、『イリス』

『イリス』は、真実主義というよりは象徴主義の作品となっています。象徴主義は、ボードレールの文芸作品『悪の華』をきっかけに、21世紀後半にフランスやベルギーで起こった運動で、 自然主義や現実主義とは対極をなし、客観的事実にこだわらずに内面的なものを表現しようとしました。

『イリス』が真実主義であれ、象徴主義であれ、素晴らしいオペラ作品であることには変わりがないのですが、残念なことに、あまり有名ではありません。

「イリス」とは植物の「あやめ」と言う意味で、物語は19世紀末のヨーロッパで流行したオリエンタリズムに基づいた空想上の日本を舞台に描かれています。現実世界とはかけ離れた日本で、オペラならではの魅力的な登場人物によって独特のエキゾチックな物語が紡がれていきます。