これからの街を作るのは
箱ではなく、人

今回初めて行われたニュー不動産展は、新しい切り口で不動産を捉えるメディアやサービスの増加を受け、そこに気づくことで不動産の魅力を発見し、もっと楽しく付き合えるようになるきっかけになるのではないかという視点から行われたトークセッション。前夜祭に始まり、2日間で6回のセッションが行われ、合わせてこれからの不動産を楽しくしてくれそうな商品の展示が行われた。

テーマはまちと不動産、遊休不動産、中古住宅、不動産とIT、シェアハウス、賃貸住宅と幅広いのだが、ここでは「まちと不動産の幸せな関係」と題された街についてのセッションの様子から、これからの街を考えるヒントを探っていきたい。

まちづくり会社ドラマチック

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まずは、どんな方々が登壇したのか、モデレータープラス3人の登壇者をご紹介しよう。モデレーターはまちづくり会社ドラマチック代表社員の今村ひろゆきさん。今村さんは商業施設を開発する会社にいたものの、大規模開発では家賃が高くなるため、挑戦をしなくなること、コミュニティにまで手が回らなくなることに疑問を覚え、起業。既存の建物を再生、活用し、そこに面白い人や活動を呼びこみ、その人たちがネットワークを広げていくことでさらに新しい人に繋がり、街の賑わいを生み出すといった仕事をしている。

 

エヌキューテンゴ

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エヌキューテンゴの篠原靖弘さんは「家に住む」から「まちと暮らす」をテーマに「まち暮らし不動産」を立ち上げ、街を歩きながら物件見学をするディスカバリーツアーを実施。また、月に数回しか使われていない家を借りてメンバー制で使う、地域に開かれた大きなキッチンのあるシェアハウスなどを手掛けており、街の中に自分にとってのサードプレイスがあれば街、物件の価値が変わってくるという。

 

福岡移住計画

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福岡移住計画の須賀大介さんは3年前に東京から福岡に移住、その時の大変だった経験から移住者の3つの不安、居、職、住を解消すべく、移住者と地元、移住者同士を引き合わせるような活動を行っている。潰れたスーパーを使って移住してきた人たちの居場所を作る、空きビルを借りてシェアオフィスとしてサブリースするなど活動は多彩だ。

 

まちづクリエイティブ

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もう一人のまちづクリエイティブの寺井元一さんは千葉県松戸市の松戸駅周辺のまちづくりを行っている。個性的な物件には個性的な人が集まるのではという仮説に基づき、古民家や放置されたラブホテルなどを改装、サブリースしてクリエイターなどに貸すなどして街の雰囲気を変えてきた。各種イベントはもちろん、最近では地元密着型のクラウドファンディングなども行っている。

 

登壇者

登壇者4人。左から篠原さん、須賀さん、寺井さん、今村さん(クリックで拡大)

以上の簡単な紹介からお分かりいただけるのは、不動産をテーマにしてはいるものの、4人ともに箱としての不動産だけを見ている人ではないということ。地域、街、人間と不動産を複眼的に見ており、個人的には街を動かすてことして不動産を考えているように思える。

 
また、いずれもが大きな箱を新しく作るのではなく、小さな箱を作る、あるいは古い箱を再生するなどを手掛けており、そこに人間の繋がりを作ることが重要だとしている。さらにその繋がりが波紋のように周囲に広がることで街が変化するのではないかと考えているように思える。これまで街づくりといえば、区画整理や再開発のようなハードの変化を指したものだが、これからは箱以外のものが街を作る。登壇者の仕事からはそんなことが感じられた。

魅力的な街を作るために、
魅力的であり続けるために大事なこと

以降、セッションでは街の持続性について、それぞれが街づくりにおいて自分たちの拠点を持っていることの意味、これから目指すものについて意見が出されたのだが、そのうちで印象に残ったキーワードを紹介していこう。

■経年成長
これまでの住宅、開発の多くは竣工時がベストな状況とされた。新築以降すぐに始まるのが経年劣化である。それに対し、あるデベロッパーは経年優化という言葉を出している。これは時間の経過とともに成熟し、価値を高めていくというような意のようだが、今回登場したのは経年成長するという言葉。最低限の改装でスタートした古いビルでのシェアアトリエの説明時に今村さんから出たもので、時間を経るごとに内装も、そこに集まる人達の人間関係も成長していくという。モノは経年で劣化することもあり得るが、そこに手を加え続ければ、より良いモノになる可能性はあるし、人間関係は時を経て育っていく。街を持続させるためには、そうした成長を促す仕組みが必要なのだろうなあと思う。

新しい故郷を子どもに作ってやりたい
須賀さんの活動の根底にある思いはこれだという。親が選ぶ街は子どもが成長する街である。そう思うから多くの親はどこに住もうかと悩むし、素晴らしい場所を選びたいと考える。だが、選んだだけでは足りない。桜並木がキレイだからとある街を選んだとして、住む人全員が眺めるだけの人だとしたら、並木は維持されない。落ち葉を掃く人、手入れをする人もいなくてはいけないのだ。その意味では選ぶだけではなく、参加することも大事だと思う。

須賀さんのように居住後、より良い街にするために自分が動くという人はあまり多くはない。だが、今回の登壇者のようなことまではできないにしても、もう少し街に関わる暮らしもあり得るのではないだろうか。

街作りと不動産はコインの裏表
松戸

まちづクリエイティブが手がけた古民家を利用したシェアアトリエ。中庭ではイベントなども行われる。たまたま、松戸を歩いていて発見、面白そうと撮影した一枚。後日、まちづクリエイティブが手がけたことを知った(クリックで拡大)

街にはいろいろな要素がある。寺井さんはマッドシティの複数の拠点、さらにその中にある個々の部屋は、その多様性を表現しているという。部屋が集まって建物になり、建物が集まって街になっていると考えれば、身近にある部屋のひとつずつは街でもある。そして、身近にある自分の部屋を自分の好きに変えられるとしたらどうだろう。「自分の部屋をリノベしたら、次は街で何か、やりたいという気持ちに繋がる。部屋が変えられることが分かったら、街も変えられると思えるし、変えられることが大事だと思う」。

 

自分の部屋に手を入れることは単なるファッションではなく、意識を変えることであり、そこから自分の住む場所全般に意識が及ぶようになれば、街や社会も変わる。深い話である。

自分にも何かできる
西国図書室

篠原さんが自宅で開いている西国図書室。自宅の中に社会に開かれたスペースを作るという試みだ(クリックで拡大)

アーティストや移住者といった、世の中ではちょっと特殊で少数な人たち以外の、ごく普通の人を対象に事業を展開している篠原さんの控えめな言葉も大事だと思った。どんな集まりも目標に至るまでの期間は盛り上がるが、街づくりも同様。問題はそれを持続していくこと。盛り上げる人がいなくても続くようにすること。

 
今回のイベントではシェアハウスのこれからについてのセッションでも同様の言葉があった。要約すると、最近のシェアハウスはアクティブでソーシャルな能力の高い人のものといった印象が強くなりつつあるが、以前はおとなしい、普通の人のものだった。それを取り戻していきたい。

意識の高い、特別な職業の人でなくても、誰もが参加でき、自分の居る場所が思える街づくり。地道で目立たないが、居心地が良いというのはこういう街ではないかと思う。


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