河川の近くに住む人は浸水想定区域で
可能性の有無と浸水深などを確認
従前の国土交通省ハザードマップポータルは全国の市区町村のハザードマップを検索・閲覧することが主な機能だったが、東日本大震災後、機能が拡幅。現在は全国のハザードマップの他に身の周りの防災に役立つ情報を一枚の日本地図の上で切り替えながら見られる仕組みになっている。2015年8月にはこのところ、相次ぐ土砂災害の危険を知るために有益な大規模盛土造成地のマップも東京都、埼玉県さいたま市、愛知県岡崎市だけであるが、アップされて話題になった。ここではこの地図でどこをチェックすれば危険を事前に察知することができるかを解説していこう。地図を開くと左側に見られる情報の種類が表示される。一番上は各種ハザードマップとあり、これには浸水想定区域と洪水ハザードマップの2種類がある。そのうち、浸水想定区域は河川が氾濫した際に浸水が想定される区域と水深を示しており、川の近くに住む人は必ずチェックしておきたい地図である。
首都圏では荒川、江戸川の流れる下町からその上流の埼玉エリアにかけてがもっとも広大な範囲に渡って浸水の可能性が高いとされており、特に荒川沿いは埼玉県北本市のようにかなり上流に至っても5m近くの浸水が予想される場所もある。もちろん、この両河川のみならず、利根川、多摩川、鶴見川、相模川から神田川や柏尾川など、大小を問わず、様々な河川に浸水の可能性がある。
もうひとつ、怖いのは最近はこうしたハザードマップで想定している以上の降水が発生しているという点。いわゆるゲリラ豪雨などである。その際にはこの地図にある以上に浸水する可能性もあるため、安心していてはいけない。川の近くに住んでいる、住もうという人は浸水予測に加え、避難場所の確認、浸水時に被害を減らすための住み方なども考えておいたほうが良いかもしれない。
もうひとつの洪水ハザードマップは各地方公共団体が整備している、浸水想定区域図に避難所等の情報を付け加えた地図で、インターネット上で公表されている自治体の分だけがこの地図上に示される。凡例をクリックすると表示されていない自治体が分かることになっており、意外に公表していない自治体が多いことが分かる。もっと公表する自治体が増えて欲しいところである。
土砂災害の危険は
急傾斜地崩壊危険個所で見る
続いては土砂災害危険個所なる項目。この中には・土砂災害危険箇所
・急傾斜地崩壊危険個所
・地滑り危険個所
・雪崩危険個所
の4種類が含まれているが、首都圏居住であれば2番目の急傾斜地崩壊危険個所だけをチェックすれば良い。最初の土砂災害危険個所は首都圏にもないわけではないが、これがあるのは地形的に見ると山地と呼ばれるエリアで、かなり限定されるからである。
では急傾斜地崩壊危険個所だが、浸水想定区域とは逆に下町エリアでは少なく、多摩丘陵その他の丘陵を中心に広範に渡っており、特に集中しているのは横浜から三浦半島にかけて。坂の多い地域には当然、急傾斜地も多いというわけである。都内では港区から品川区にかけての、低地と台地の間にも存在している。
続いての災害に役立つ情報のうち、道路冠水想定箇所に始まる、道路関連の3項目は首都圏には縁がないので、その他地域を見る以外であれば、特に見る必要はない。
土地の変化を見たいなら、
空中写真の比較もしてみよう
防災に役立つ地理情報としてトップに出てくるのが写真。ここでは1945年から始まり、現在までの写真が数年間ずつ、7つに分けられている。1945~1950年の写真では焼け野原になっていた都心部がその次の1961年~1964年になると住宅が密集しているなど、歴史を感じられる情報でだが、すべての箇所の写真があるわけではなく、ある時代だけはないということもある。具体的な使い方として、自分が住んでいる、あるいは住もうとしている場所の過去を知るために見るというところだろうか。かつての水田が宅地になっていたり、池や崖が無くなっていたりと場所によっては大きな変化がある。
もっとも注意して見たいのは1961~1964年、1974~1978年を挟んでそれ以前、それ以降の変化。ご存じのように1960年代は日本の国土が大幅に改変された時期で、しかも、宅地造成等規制法が間に合わないほど、急激に改変が進んでいる。造成地であることが分かっている場合などであれば、慎重に見ておきたいところだ。
住まいに安全を求める人なら、
土地条件図は必見
続いては土地条件図。これは防災対策や土地利用・土地保全・地域開発等の計画策定に必要な、 土地の自然条件等に関する基礎資料として昭和30年代からの土地条件調査の成果を基にしたもので、地形分類が記されたもの。これについては自分が住んでいる場所について知っておくためにぜひ、一度は見ておきたいところ。地形については山地・丘陵,台地・段丘,低地,水部,人工地形などが分かる。
これには昭和30年代から整備されている初期整備版(平成26年12月時点で152面分が整備)と、平成22年度から平成24年度に内容の一部(人工地形)を更新した人工地形更新版(71面分)があるが、まずは初期整備版を見て、もしあるようなら、同じ場所の後者を見るというやり方が良いだろう。首都圏は整備が進んでいるが、それでも更新版はない場所もある。
一般には下町エリアは低地、武蔵野台地上などと簡略的に言うことが多いが、土地条件図を見てみると、同じ低地の中にも自然堤防という微高地があり、台地上にも川沿いなどの低地もある。全体は弱くても、ある一部に強い場所があったり、強いところのうちに一部弱いところがあるわけで、そのあたりを意識することが安全な住まい選びに繋がる。この辺りは武蔵野台地だからと安心するのではなく、詳細を知っておこう。
河川、海近くなら見ておきたい、
治水地形分類図
続いて、2種類の水に関連する主題図が続く。沿岸海域土地条件図、地水地形分類図である。このうち、沿岸海域土地条件図は沿岸域の開発や利用、管理、防災などに活用されるもので、一般の人にはあまり縁がない。それよりも河川、海近くに居住する人なら見ておきたいのが治水地形分類図。土地条件図でも地形は記載されているが、洪水と関連の深い微地形が詳しく分類されているからである。薄いブルーの部分が旧河道。多摩川のような大きな河川周辺では川が大きく左右に振れたり、別れたり、あるいは他の小さな支流があったりと変化が多く、過去の地形が現在と違っているのはよくあること(クリックで拡大)
明治時代の低湿地は
思っていた以上に広範に渡る
低い土地が危険という意味では明治期の低湿地も見ておきたいところ。この地図では水田、湿地、茅が生えていたなど植生も含めて湿地の様子が分かるように作られている。水田が含まれているので、下町から荒川、江戸川流域の埼玉県内、多摩川沿い、大田区などにも広く低地が広がっていることになっている。また、この地図にも現在は暗渠化されている旧河道が記載されており、ところどころにはため池と見られる場所もある。
微妙に役に立たない活断層図、
火山基本図、火山土地条件図、色別標高図
明治時代の低湿地以降は断層、火山、標高関連の図が続くのだが、率直なところ、この辺りはあまり現実的ではない。まず、都市圏活断層図は2万5000分の1にしないと分からず、かつ、そもそも首都圏近郊にあるのは立川断層のみ。説明もないので、別途内閣府の防災ホームページなどで確認するほうが良い。火山基本図は首都圏近くでは箱根山、富士山、浅間山が掲載されており、火山土地条件図は富士山周辺となっているが、噴火の際の予測ではないので今、その図だけを見ても得るところはない。また、色別標高図は陸地をゼロmから4000mで等分に色分けしているため、人間が主に住んでいる低地から台地はほぼ全部同じ色になってしまい、高低差が分からない。科学的には正確なのだろうが、防災のために作る地図なら、主に人が住んでいるエリアの土地の高さが分かるような工夫をしてほしかった。
追加の公表が待たれる
大規模盛土造成地
2015年8月に追加されたのが大規模盛土地図。公開された東京都、埼玉県さいたま市の他、首都圏では川崎市、埼玉県、横浜市、横須賀市はすでに公表されているが、今のところ、掲載はされておらず。作られている地図については早々に追加で公表していただきたいものだ。大規模盛土地が多いのはやはり多摩エリアで特に多摩ニュータウンエリアの見事なまでの造成ぶりには圧倒される。23区内でも多少点在しているが、規模ははるかに小さい。
以上、国交省ハザードポータルサイトの読み方をまとめた。現状で分かりにくい標高図などについてはもっと実用的なものに作り直すなどして、これさえ見ればある程度の安全は確認できるような、より使い勝手の良いものにしていっていただきたいものである。