住みたい街 首都圏/キケンな街の見分け方

許可不要、一戸建てミニ開発の◎と×と選び方

建売一戸建て開発では敷地面積の広さによって開発許可の要不要が分かれる。許可不要のいわゆるミニ開発では立地、価格などでメリットがある一方で物件によっては不安な要素もある。どこを見れば良いだろう。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

都市計画法による開発か、
許可を要しない開発かで違い

許可と面積の関係

開発される面積によって許可の要不要が決まってくる(クリックで拡大)

一戸建ての宅地開発は大きく2種類に分けられる。ひとつは都市計画法による許可を得ての開発か、許可を要しない開発か、である。許可の要不要は開発面積によって決められており、国土交通省のホームページによると右の通り。

 

私道

行き止まりの標識の脇に私道である旨が記載されている。私道を作って開発されているのは許可を受けていないケース(クリックで拡大)

許可を要しない開発はしばしばミニ開発と呼ばれるが、同省では土地情報総合ライブラリーにおいて「大都市部においては、ミニ開発等により敷地が細分化され、良好な住宅地の居住環境が阻害されるおそれがある。そのため、問題のあるミニ開発、敷地の細分化等を抑制する必要がある。」として、調査研究及び消費者向けチェックリストを作っている。ここでミニ開発とされているのは
●開発面積が開発許可対象規模(500平米)未満
●各区画の敷地面積が100平米未満
という宅地開発である。

 

許可のある開発

おおよそ30棟以上ともなると許可が必要な面積となり、相応の公共施設を配するなど基準に適合した環境を作らなくてはいけないことになる(クリックで拡大)

開発面積が都市計画法に則っていることは冒頭に述べた通りだが、開発に許可が必要な場合には当然ながら、ある一定の基準を満たしていることが求められる。東京都都市整備局の「都市計画法における開発許可制度のあらまし」によると技術的基準として、
●予定建築物が用途地域等に適合していること
●接続先道路、開発区域内の道路、公園等が基準に適合していること
●給排水施設が基準に適合していること
●宅地の安全性(地盤の改良、擁壁の設置等)が確保されていること
●申請者に必要な資力及び信用があること
●工事施行者に必要な能力があること
●開発区域内の所有者等の同意を得ていること
などが挙げられている。

 

提供公園

中央線沿線で行われていた開発。建物と同時に提供公園の工事も行われていた(クリックで拡大)

抽象的で分かりにくいので、非常に簡単にいくつかの要件の例を挙げると、許可が必要な場合には敷地面積によっては公園やゴミ置き場その他公共施設を作らなければならず、道路も袋小路、私道はダメ。場合によっては建築基準法が最低の基準としている4mではなく、6mあるいいはそれ以上など道幅の広い道路を作ることを求められることもある。作った道路は公共のものになるが、その分、完成後は行政が面倒を見てくれる。当然、許可を得るためには時間が必要で着工までに半年以上かかることもある。

 

低い1階

ミニ開発では1階を下げることで全体の高さを抑え、それで3階建てを可能にしている例があるが、場所によっては浸水しやすくなり、危険もある(クリックで拡大)

これに対して、ミニ開発であれば敷地全体に関する許可が不要なため、着工までに2~3カ月もあれば良いことも。この違いが価格にも反映することになる。時間がかかり、手間がかかり、敷地面積もすべてが使えない分、許可が必要な開発は分譲時の価格も高めになりがちなのである。そのためか、戸数のまとまった現場は大手も含め、ある程度の規模の会社が手掛けていることが多い。逆に言うと、規模の小さな現場は規模の小さい会社が手掛けているケースが中心になる。

 

もうひとつ、敷地面積100平米未満についても説明しておこう。これはかつての住宅金融公庫の最低基準を意味している。住宅金融公庫が転じた現在の住宅金融支援機構のフラット35は敷地面積に制限が無くなっているが、かつては敷地面積100平米以上で公庫を利用した場合には中間検査、竣工検査などが義務付けられていた(現在の敷地要件のないフラット35でも検査は必要)。当然ながら第三者の検査が入るとなると、いい加減なことはできない。逆にいえば、第三者の目を入れたくない事業者は公的融資を利用したがらないこともある。

開発の規模

敷地の規模を見る、あるいは敷地図に公園その他があるかを見れば許可のある開発かどうかが分かる(クリックで拡大)

ミニ開発という言葉が登場したのは1970年代後半だそうだが、時代と共に評価も少しずつ変わっていると早稲田大学オープンカレッジの講師で尚美学園大学の講師でもある松本泰生さん。「かつてはミニ開発と言えば、郊外の地主が土地を分割して私道を囲むようにして小さな木造住宅を建てたものが多く、ゴミ置き場、駐車場もなく、共同体として管理されていない点が問題などと言われましたが、最近は住宅の選択肢を増やすものとして必ずしも否定的には見られなくなっているようです。木造3階建てが可能になり、以前よりも広い家が建てられるようになったことも幸いしているのでしょう」。

 

ミニ開発のメリットは
立地と価格、比較的高い防犯性能など

ミニ開発のメリット

小規模な開発であれば、それほど広くない土地でも有効に使える(クリックで拡大)

では、そうしたミニ開発のメリットはなんだろう。大きく2つ考えられる。ひとつは都心部でも供給が可能なこと。開発が進んだエリアではまとまった土地は得にくい。実際の供給を見ても、30戸以上のまとまった開発となると都心からは30~40分程度離れていたり、最寄り駅からバス便など距離があったりなどという例が多い。利便性を優先したい、住み慣れた場所で探したいとなると、どうしても規模の小さい開発で探さざるを得なくなるのである。

 

そして、もうひとつの、そして最大のメリットは価格。都心部ではそもそも開発許可が必要なほどの敷地のある一戸建て開発がないので、郊外で比べてみると、明らかにお手頃なのである。たとえば西武新宿線都内部で40戸超、公園あり、敷地内道路6m幅の4LDKは5000万円台後半。これに対し、7棟の現場で前面道路4mの4LDKは3500万円~4000万円、2棟現場の5LDKは4400万円ほどとなっている。もちろん、駅からの距離は微妙に2~4分違うが、土地面積120平米前後、建物面積は100平米前後で家としてのサイズはほぼ似たようなものである。また、中央線のやはり都内部で見てみると40戸ほどの現場で5700万円~に対し、4棟現場で5000万円、2棟現場で4800万円などとなっており、やはり、開発許可を得た物件より安めということが分かる。

郊外のミニ開発

私道部分が子どもの遊び場になるなど、使い方によってはメリットもある(クリックで拡大)

私道など不特定多数が入りにくいスペースを囲んで住宅が並ぶことから、比較的防犯性能は高いとされる。子どもが遊んでいても車が入ってこない、小さなコミュニティが形成されやすいなどをメリットとして挙げる人もいる。安全面だけでなく、環境的にも静かで良いということも言える。

 

供給する側からすると、マンションほど周囲の景観に影響を与えるわけではないため、反対運動が起こりにくい点もメリットだろう。

ミニ開発のデメリットは
防災面、景観面や長期居住に関する不安など

旗竿地の解説

旗竿部分を駐車場にした場合、安全に使うためには間口の広さがポイントになる(クリックで拡大)

続いてデメリットを見ていきたい。まずは防災面の不安。敷地を無駄なく、効率的に使おうとプランニングすると、旗竿状の敷地が生まれることがあり、この場合、旗竿部分は駐車場として使われることが多い。

 
建築基準法上で言えば、4m幅の公道に2m接してさえいれば建物は建てられるが、旗竿部分が2mだと車を置いた場合、通れる部分はかなり狭くなる。というのは小型車の場合で車幅は1.6~1.7m。残りの30~40センチメートルが通路ということになるが、これで普通に歩けるかどうか、冷静に考えてみると良い。さすがに2mちょっきりという物件は少ないが、かなり狭いケースがあり、子どもを連れて、荷物を持って急いで出る場合などには障壁になる。

 

隣との間

高低差のある土地の一番高いところの住宅の間隔を見ていただきたい。民法が許容するぎりぎりで接している(クリックで拡大)

隣家との間は狭く作られている場合には延焼の危険もある。ことに隣り合った家の窓同士が近い場所にある場合には、そこから火が入る可能性がある。一般の窓ガラスは炎の熱で割れて脱落、そこから炎が侵入して延焼することがあるのだ。もちろん、防火ガラス、防火戸などを使うなどで、延焼対策がなされていれば良いが、そうでない場合は非常に危険。ちなみに隣家との間は最低限で0.5mである。あまりに近いと、音などの問題も気になるところだ。

 

敷地を無駄なく利用するため、植栽などに充てられるスペースが少なく、住宅がぎっしり密集している印象を与えるのも宅地の価値としては微妙なところ。前出の松本さんによると「最近は面積、設備にはこだわるけれど、生活は室内で営まれるのだからと庭や外観にはこだわりがないという人が増えているようです」とは言うものの、経年で落ちる建物の価値をフォローするのは地域であるはず。周辺に気を使わない建物で良いものだろうか。

実際、国交省が作っている「魅力ある居住環境のために ~戸建住宅団地の居住環境評価に関するガイドラインとは~」というパンフレット内には敷地細分化に伴う土地価格への影響の検討結果として地価関数を用いたシミュレーションが掲載されている。それによると、一部に細分化されたある一区画の土地の地価は全体として下がる傾向にあることが提示されている。場所によって、細分化の進行によって結果は異なるだろうし、都心部であればシミュレーションほど下がらないという考えもあろうが、考慮しておいても良いのではないかと思う。

長期居住という点では2つ考えられる。ひとつは高齢になった時にも住み続けられるかという点。残念ながら、木造3階建ては居住面積を広げはしたが、その分、住戸内に階段というバリアを増やしもしている。若いうちは気にもならないだろうが、身体が不自由になった時に住みやすいかどうか。疑問である。

旗竿地

旗竿になった2軒が隣り合っている例。この細い土地を利用して建替え等が行われることになる(クリックで拡大)

さらに建替えが可能かどうか。分譲時は一度に同じ事業者が建てるのでさほど問題にならないだろうが、個別に建替えるとすると隣家との間が狭いことなどは不利に働くはず。また、そうした土地でベタ基礎を壊すのは騒音、振動がひどいことになり、これまた難しいのではなかろうか。

 

いくつか現地を見た中には同じ敷地内に敷地面積が倍ほど違う建物が建てられているケースがあり、個人的にはそのあたりもいささか疑問。マンションのような共同住宅の場合、入居者層に極端に幅があると意見がまとまりにくくなるのだが、ご近所付き合いにも同様の懸念がある。昔からそこに住んでいる場合にはそうした感情的な問題は起きにくいが、同時期に入居する場合には状況が異なるケースがあるのだ。

規模に関わらず、
売り主の信頼度は要チェック

ミニ開発には限らないが、住宅は買っておしまいという商品ではない。マンションの場合には管理組合があり、長期に渡る修繕計画があるが、一戸建ての場合には買った人が自分で計画してメンテナンスをしなければならない。その際、相談相手がいるかどうかは大きなポイント。購入後も長く付き合ってくれる会社なのか、そのあたりは見極めが大事である。

傾いた土地

擁壁を新設、土地を広げて作られたミニ開発の先端部。新しく作られた部分と既存部分の間に亀裂が入り、新しい部分が柵もろとも左側に傾いているのが分かる(クリックで拡大)

あちこちの開発を見て歩くと、残念ながら、あまり住む人のことを考えず、効率だけを優先して建てたと思われるような場所もあり、マンションに比べると、玉石混淆、しかも良い物件、ダメな物件の差が大きいという印象がある。建物の質はもちろんのこと、売り主の信頼度のチェックは厳重の上にも厳重に行いたいところ。短期で売り切り、売った後は知らん顔という会社がないとは限らないのでる。しかも、ミニ開発の売り主は中小規模の事業者が中心になる。大手が信頼できるかというと必ずしもそうとは言えないが、資金力、信用力に関しては有利。そうでない会社から買うのであれば、一層の注意が必要である。

 

ちなみに前出の国交省のパンフレットの中にはチェックリストが載せられており、平成22年発行とやや古いものの、視点としてはそれほど変わらないものと思われる。事前にチェックしてみてはどうだろう。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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