舞台とドラマや映画などの映像作品との一番の違い……それは「生で観るか」「画面を通して観るか」……このポイントです。
え、そんなの当たり前じゃないかって?ですよね。ではもう少し詳しく説明していきましょう。
舞台の現場と映像の現場
俳優にとっての違いとは
映像作品の場合「カメラで撮影する」のが大前提になります。例えば二人が向かい合って語るシーンでも、実際は相手の顔ではなくカメラに向けて喋っていたり、アングルを変えて何度も同じシーンをぶつ切りにして撮影したりと、映像の現場では技術や段取りに俳優の方が合わせて進行していくバージョンが多々ある訳です。舞台は幕が開いた瞬間から、舞台上のことはほぼ全て俳優に委ねられます。照明や音響、装置のトラブルから共演者の台詞忘れ、出とちり、道具の持ち忘れなど、大きなことから小さなことまでアクシデントが起きた時は、観客の前に立つ俳優がそれらをフォローしなければなりません。「はいカット!撮り直し!」が成立しないのが舞台なのです。
また、カット割りやアップなどで、ある程度視聴者の目線やフォーカスを限定して作品を提供する映像とは違い、舞台は客席にいる観客自身が誰を見るか、どこを見るかを自由に決めます。つまり下手な芝居をする主役より、隅の方で光る演技をしている俳優が目立つことも有り得るわけです。
ですから、舞台にかける稽古時間は平均1か月以上=密な状態で俳優同士が信頼関係を築き、作品に入り込めるよう長く設定されている場合がほとんど。また、演出家によってさまざまな要求が出される舞台の稽古場では、俳優の人間性が驚くほど露わになります……それこそ良い点も悪いところもはっきりと。
更に本当に自分の感情を動かして芝居をしなければ、舞台ではその”嘘”が観客にバレてしまいます。俳優にとって稽古中から自らの感情を動かし、相手役と役の人物として交流し、物語を生き抜く舞台の現場は精神的にも非常にハードです。
何十回もデートを重ねるより
1か月の稽古で見えることの方が多い
『嵐が丘』でヒースクリフを演じた山本耕史さんの俳優としてのデビューは1987年。10歳の時にミュージカル『レ・ミゼラブル』でのガブローシュ役を皮切りに、これまで50本近くの舞台に出演しています。山本さんの舞台でのエピソードで印象深いのは2013年の三谷幸喜さん作・演出作品『おのれナポレオン』でのこと。モントロン伯爵役の山本さんは、心筋梗塞のため同作の途中降板を余儀なくされた天海祐希さんの代役として、急遽参加することになった宮沢りえさんのフォローのため、彼女の台詞も覚えて舞台に立ち、公演を成功に導きました。
確かに”交際0日”での結婚はハタから見ると驚きかもしれませんが、堀北さんは『嵐が丘』の稽古場で山本さんの姿をずっと見ていて、心から信頼できる人だと確信したのだと思います。楽しいだけのデートを何十回も重ねるより、舞台の現場で1か月の稽古と1か月の本番を一緒に乗り越える方が相手の本質が見える……”交際0日”でも、二人は互いの芯の部分を「舞台」という現場を通して見つめ合っていたのではないでしょうか(稽古の後半から、山本さんが堀北さんに40通も手紙を渡し続けたり、勘で彼女が乗る新幹線のチケットを取って指輪を渡すというのは凄いと思いますが)。
『嵐が丘』ではエドガーの子を産むと同時に息絶え、亡霊となってヒースクリフのもとに帰るキャサリンですが、実生活では最高にハッピーな結末を迎えたお二人。舞台が結んだ素敵なご縁を祝福したいと思います。