ガイドお勧めの『ファルスタッフ』
アルトゥーロ・トスカニーニの指揮は全て一聴の価値がありますが、 ファルスタッフを数えきれないくらい歌いあげたマリアーノ・スタービレ(バリトン)は特に素晴らしい歌声でトスカニーニの指揮に応えています。これらの録音は古いものですが、1937年のザルツブルク音楽祭での公演を録音したものが最も聴きやすいと思います。トスカニーニは、1950年には、ニューヨーク・ブロードキャスティング・カンパニーのオーケストラとコーラスと『ファルスタッフ』を再び指揮しています。こちらは音が改善しているので、CDを入手するならこちらが良いかもしれません。ジュゼッペ・ヴァルデンゴは歴代のファルスタッフの中でも有数の名演を見せつけ、他登場人物も適役と言えるでしょう。
カラジャンがティート・ゴッビとスタジオで録音したバージョンもお勧めですが、ゴッビのファルスタッフは、ヴァルデンゴのファルスタッフには劣ります。それでも、現在の歌手とは比較できないほど揺るぎないファルスタッフを体現しています。
他にも素晴らしい歌手たちが脇を固めています。カラジャンが1980年代初旬に指揮し、ジュゼッペ・タッデイが歌った『ファルスタッフ』も傾聴に値しますが、当時、タッデイは既に歌手としては老齢に達しており、声に疲労が滲み出てしまっています。また、オーケストラの音が前に出すぎてしまっているシーンもあり、カラジャンのコントロール不足と言えるでしょう。それでも、一度は聴いていただきたいバージョンとなっています。
カルロ・マリア・ジュリーニの録音の評価は分かれるところです。ノクターンのようにメランコリックなバージョンで、レナト・ブルソンの完璧ではあるがユーモアが足りないファルスタッフと脇役によりメランコリー(メランコリーはファルスタッフの特徴でもあるので間違ってはいないのですが)が強調されています。
ブルソンは、歌う前にシェークスピアの作品を読み、他の歌手より深くファルスタッフの人間的な部分を研究しており、ガイドは高評価しています。
最後に、レナード・バーンスタインと、録音された中では最高のファルスタッフ、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウのコンビをご堪能ください。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の技術と最高の録音が加わって実現した奇跡と言えます。もし、ガイドがお勧めの『ファルスタッフ』を一バージョンだけ選ばなればならないとしたら、迷わずこのバージョンを選ぶでしょう。