アドバイス1 教育費は貯蓄を取り崩すことなく負担できる
ご相談の老後資金を考える前に、まずは今後のキャッシュフローを確認しておきましょう。まず、支出が月割りにして89万8000円ときわめて大きいですが、そのうち教育費(通学の交通費や部活動費を含む)が月40万6000円。長女の方が薬学部で卒業まで6年間かかりますが、来年以降は入学金の支払いがない分、年間で30万~60万程度は下がります。一方、長男の方は、3年後に大学入学が控えています。まだ進路は不明ですが、現時点で年間140万円かかっていますので、おそらく今の額を超えることはないでしょう。したがって今後6年間くらいが教育費のピークと考えられます。幸い、ご主人は今の職場にあと10年は勤務するとのことですから、収入さえ今の水準をキープできれば教育資金は足りることになります。そして、そのピークさえ乗り切れば、家計支出はグッと減ります。お子さん2人が卒業し、教育費がなくなればそれだけで月に40万円は支出が下がります。結果、ご主人が今の勤務先を退職する最後の3年間は、年間500万円近く貯蓄ができることになります。
その後、転職した場合、収入が500万円程度に下がるとのことですが、単身赴任先の生活費13万円がなくなりますから、夫婦(もしくは娘さん)との生活費は30万円台半ばには抑えられるでしょう。したがって、転職後も年間60万~80万円くらいは貯蓄できることになります。
アドバイス2 家計に余裕が生まれたときこそ注意が必要
では、老後資金を考えてみましょう。先に定年までのキャッシュフローを確認しましたが、そのとおりになれば、ご主人60歳のときに6000万円程度(最初の勤務先の退職金1600万円含む)の貯蓄ができていることになります。
ここでポイントとなるのは、これはあくまで、現状の支出を維持する、つまり家計に余裕があるからと新たな支出が増えないという前提での試算です。これまで教育費などお子さんに大きく支出してきましたが、それがなくなり家計に余裕ができると、その分、支出が増えてしまうというパターンはよくあること。もちろん、何から何まで切り詰める必要はありませんが、老後まで時間がそうないだけに、無駄使いはしないという意識は不可欠でしょう。
もうひとつのポイントは、老後の生活費をどれだけ抑えられるか。先に6000万円の自己資金ができると試算しましたが、ご主人が85歳となる25年間を老後とすれば毎月20万円。対して生活費が30万円なら10万円の公的年金で足りますが、生活費が35万円なら15万円の年金が必要になります。
公的年金がどのくらい受給できるかがまだわかりませんが、現時点でご主人の厚生年金加入期間は10年。できれば、転職先では厚生年金に加入し、年金の上積みをしたいところです。
アドバイス3 じっくり家計管理ができるのが専業主婦のメリット
もうひとつ、効果的な老後対策があります。できる限り長く働くということです。ご主人も可能なら65歳まで働くことをお勧めします。奥様については、帰国子女である長男の方の勉強を教える必要があり、現時点では働けないとのこと。であれば、その間は専業主婦であるメリットを活かして、家計管理をしっかり行ってください。
家計簿を付け、自分なりに節約を意識して、1万円でも2万円でも多く貯蓄に回していく。それだけでも、家計に十分貢献できます。教育費以外にも何かとかかるとは言え、大きなローンもなく、世帯収入は1000万円を超えているのですから、家計もまだ見直す余地はあるはず。
また、貯蓄も単に預けるのではなく、預金金利を意識してみましょう。現在、普通預金に2200万円を預けていますが、利息はおそらく0.02%。それを、金利0.4%の定期預金に預ければ、1年後に手にする利息は、普通預金の20倍となる約7万円(税引後)。低金利とは言え、10年続ければ70万円にもなります。手間は多少かかりますが、ネットでこまめにチェックすれば、高い金利の貯蓄商品がいろいろ探せるはずです。
ただし、投資はまだ控えてください。現状を考えると不確定要素(ご主人の仕事、お子さんの教育費)がまだ多く、大事な預金に対してリスクは取れません。
「ポチ袋」さんから寄せられた感想
深野先生、ご助言ありがとうございました。退職まであと10年、これまで通り主人が仕事を続けられるように支えようと思います。教育費が非常に膨らんでしまい、私が就労できないことも加わって、老後を思うと漠然とした不安が常に付きまとっていた状態でしたが、アドバイスを伺って、今できる事、気を付けるべき事が明確になり、すっきりしました。お金を掛けるところと節約するところのメリハリをどうつけていくか、もう一度、家計を見つめ直してみます。教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ
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