グランツアラーはBMWの3列シートミニバン
精力的にモデルラインナップを拡充しているBMW。2シリーズに追加された「GRAN TOURER(グラン ツアラー)」は、「BMW」ブランドで初となるFF(前輪駆動)で話題を集めている「ACTIVE TOURER(アクティブ ツアラー)」をベースに3列シート化されたモデル。
BMWには、X5にオプションで3列シートを設定している例はあるが、3列シートミニバン的なモデルは初。どんな実力の持ち主なのかご報告しよう。
ボディサイズは全長4570×全幅1800×全高1640mm(218d Gran Tourer M Sport)で、ベースとなるアクティブ ツアラーの全長4350×全幅1800×全高1550mmと比べると、220mm長く、90mm高くなっている。
なお、輸入車ではモデル末期のVWゴルフ・トゥーランが全長4405×全幅1795×全高1670mm、シトロエンのグランドC4ピカソが全長4600×全幅1825×全高1675mmとなっている。
ホイールベースもグラン ツアラーは2780mmで、アクティブ ツアラーの2670mmよりも110mm延長されている。全幅は1800mmで日本の駐車場(横幅制限)に対応するが、1550mm以下の高さ制限のある駐車場には入庫できない。
当然ながら3列化に対応するためのディメンションで、3列シートで全高を1550mm以下に抑えているホンダ・ジェイドなどをBMWの開発陣が見たら「どんなマジックを使っているんだ?」と驚愕するかもしれない。
<目次>
- グランツアラーの気になるサードシートの広さは?
- グランツアラーの積載性は良好
- BMWで人気のディーゼルエンジンはトルクフルで走りやすい
- ファミリーユースでグランツアラーを選ぶならM SPORTはNG?
グランツアラーの気になるサードシートの広さは?
3列シートのグラン ツアラーを購入しようと考えている人は、非常用のサードシートが欲しいからだろうが、肝心のサードシートはかなり割り切っている。いまの日本で、新車で買えるサードシート車の中でも最も狭くて、乗降性も厳しいのでは? と思えるほど。
身長171cmの私が腰を思い切りかがめ、頭を下げながら乗り込むと、高めのフロアに設置されたサードシートは、座面がかなり低い位置に設定されている。頭上も頭こそ天井につかないのは救いだが、いわゆる「体育座り」になり、5分くらいなら我慢できそうだが、30分でも音を上げてしまいそう。
足元のスペースは、2列目にスライド位置によるが、小柄な女性か子ども用で、実用になるのはせいぜい身長155cmくらいまでだろう。
友達の子どもを乗せるにはちょうどいいかもしれないが、これくらいの身長であっても祖父や祖母など高齢者を乗せるのはアクロバティックな乗降姿勢になるため気の毒のような気がする。
2列目は1列目よりも若干高めのアイポイントで、大柄な人でも頭上には余裕がある。フットスペースも最後部にスライドさせればリラックスして座れるほどの広さ。
1列目はミニバンというよりもセダンやワゴンなどよりも少し高めの視界という程度で、大きなクルマを運転しているという感じはしないから、初めてこうしたモデルを運転する人でも違和感は少ないはずだ。
グランツアラーの積載性は良好
サードシートに子どもを座らせることがたまにあっても、普段は折りたたんで使うケースが多いはず(3列目を倒さないとほとんど積めないという事情もあるが)。
3列目は背もたれを前倒し(2列目を前に少しスライドさせる必要はある)するだけでフラットに格納できるから積載性は良好だ。2列目もフラットに倒すことができるほか、助手席も前に倒せるから最大で2.6mの長尺物も積載できる。
しかし、サードシートは「年に数回使うかなぁ」という程度なら2列シートのアクティブ ツアラーの方が積載性を考えても使いやすいはずで、こうした方はアクティブ ツアラーを選んだ方が合理的だろう。
BMWで人気のディーゼルエンジンはトルクフルで走りやすい
さて、今回試乗したのはBMWブランドの中でも大人気のディーゼル。2.0Lの直列4気筒DOHCは、150ps/4000rpm、330Nm/1750-2750rpmというスペックで、スムーズな変速が身上の8ATとの組み合わせになる。
アイドリングストップが作動していない停止時は「カラカラ」というディーゼルらしいエンジン音が車内にも侵入してくるし、中・低速域の加速時も音や振動はやや大きめ。音や振動もすぐに慣れてくるので、デメリットよりも後述する利点の方が気に入ると思うのだが。
逆に、ディーゼルらしいトルクフルな発進性能は大きな魅力で、サードシートまでフル乗車したり、多くの荷物を積んだりしても加速に不満を抱くことはほとんどないだろう。
しかもJC08モード燃費21.3km/L、そしてハイオクガソリンではなく軽油ですむのもうれしいところ。今回は、一般道4割、高速道路6割くらいの走行だったが、276km走行して燃費は13km/L台だった。
とくにエコランはせずに流れに乗って走ったし、夏ならではの渋滞が多く、エアコンの作動もフルに近い状態だったので、かなり燃費には厳しかった。エコランを意識すれば、実燃費も14~15km/L台も可能かもしれない。
「MINI」をのぞき、「BMW」初のFFモデルとして登場したアクティブ ツアラー。「BMWだからFRでないと!」という方は、世界的に見てもこのクラスを買う人だと意外に少ないという調査結果があったそうで、グラン ツアラーの購入を考えている人も同じだろう。むしろFFなので雪国を含めてユーザーの裾野は広いモデルなのかもしれない。
ファミリーユースでグランツアラーを選ぶならM SPORTはNG?
それでもBMWを買うわけだし、「走りもいいのだろう!」という期待を抱く人が多いと思われるが、軽快感のあるハンドリングからはBMWらしさを存分に感じることができた。
ただし、試乗車の「M Sport」は、M スポーツサスペンションやランフラットタイヤ(205/55R17)のためか、速度を問わず絶えず前後、左右に揺すられている印象で、フラットライドを味わえるのは路面がよく、速度域が高い高速道路くらいだ。
ファミリーユースが中心となるはずの同モデルにM SPORTが必要かは個人的に疑問で、家族を乗せるなら同グレード以外をオススメしたい。他グレードには乗れていないが、アクティブ ツアラーではここまで硬くなかったので、おそらくもう少し平和な乗り味になると思われる。
ミニバン大国日本にいると、パッケージングが極限まで煮詰められた日本のミニバンを買っておけばOKという見方はよく分かる。
それでも日本のミニバンだけはイヤという価値観を持っている方は少数派でも確実にいるわけで、こうしたニッチな市場で確かな地位を築くのは、極端に選択肢が少ない(輸入車では)こともあって間違いないだろう。
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