オペラの中のオペラ
オペラ『ドン・ジョバンニ』は、多くのファンに『フィガロの結婚』や『コシ・ファン・トゥッテ』と並んで「オペラの中のオペラ」と評され、作曲家モーツァルトと作詞家ロレンツォ・ダ・ポンテのコンビによる3大作品の一つとなっています。『ドン・ジョバンニ』 は、モーツァルトの『魔笛』や『フィガロの結婚』に続き、歴史上7番目に上演の多い作品です。モーツァルトは、不覚にも眠ってしまったっために時間がなくなり、初演開始前ぎりぎりのタイミングで序章を作曲したと言われていますが、初演前日には作曲が終わっていたとも言われており、真相は定かではありません。
どちらにしても、初めから終わりまで、音楽史上に残る名作品となっています。
主人公ドン・フアンの魅力と影
『ドン・ジョバンニ』 の物語は、ティルソ・デ・モリーナという17世紀のスペイン人作家の『セビーリャの色事師と石の招客 』に出てくるドン・フアン伝説に基づいています。ロレンツォ・ダ・ポンテというドン・ジョバンニの台本作家は、この作品に基づいて台本を書きましたが、登場人物や話の流れは原作よりもイタリア的なものになっています。ドン・フアンといえば現在でもプレイボーイの代名詞です。彼は、年若き傲慢な貴族で、女性と誠実に付き合うことができず、出会う女性全員を誘惑し、心を奪っていきます。社会的規範やモラルには縛られない、中身のない人間として描かれています。
メキシコ人作家カルロス・フエンテスは、ドン・フアンを自分の作品の登場させ、「恋人や夫のいない女性には興味がない。彼女を愛することで、他の男の名誉を汚すんだ」と語らせています。
また、ドン・フアンは実は同性愛者であり、他人と喜びを共有することができない、極端に自己中心的な性格であるとも指摘されています。彼は、自分の満足にしか関心がなく、フロイト主義者たちは、彼の心の屈折は母への満たされない愛に基づいていると分析しています。
ドン・フアンは、プラトンのように、自分が持っていないものを求める情熱により衝動的に行動し、いつの間にかその情熱の虜になってしまうのです。現代であれば、「セックス依存症」と診断されるでしょうが、18世紀にはオペラの題材となりました。
実は、モーツァルトもドン・フアンと同じく、女性が大好きで、ワインやパーティーを愛していましたが、モーツァルトは結婚し、子供もいました。
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