闘いとドラマ性のスポーツ・エンターテインメント
WWEスーパースターのUS王者ジョン・シナ
年間最大のイベントは春に開催される『レッスルマニア』ですが、3月29日にカリフォルニア州サンタクララで開催された今年の第31回大会はリーバイス・スタジアムに世界40ヵ国から7万6976人の大観衆を動員。同所の観客動員記録を更新しました。興行収益は1260万ドル(15億1200万円)、グッズの売り上げは330万ドル(3億9600万円)でしたから、一大ビジネスと言っていいでしょう。
それぞれにキャラクターを確立した選手たちが権力闘争、嫉妬、友情など人間臭いストーリーを通してリング上でぶつかり合うドラマ性のある闘い模様は、プロレスの範疇を越えてスポーツ・エンターテインメントという独自のジャンルとして認識されており、様々なメディアを使って世界に進出。もちろん日本も重要なマーケットです。
ただ、日本には独自のプロレス文化があり、また言葉の問題もあって進出には慎重でした。90年4月13日に全日本プロレス、新日本プロレスと共催という形で東京ドームで『日米レスリング・サミット』を開催、94年5月には天龍源一郎らの日本の人気選手、全日本女子プロレスの協力を得て横浜、名古屋、大阪、札幌を回る『マニアツアー』を開催しました。
そして02年3月2日に、現在は本名のドゥエイン・ジョンソンとして映画俳優として活躍しているザ・ロックをトップとしてようやく単独の日本上陸を果たしました。当時、日本でもWWEが字幕付きで放映されており、その意外性に富んだ連続ドラマのような展開はプロレスファン以外の人も惹きつけて大成功。以後、WWEは07年を除いて日本公演を続けています。
ハウスショーならでは!日本のファンを意識した構成に
WWEのテレビ番組は『ロウ』と『スマックダウン』という2大ブランドに分かれていて、それぞれにストーリー展開があります。さらに昨年夏にWWEと契約したKENTAがイタミ・ヒデオという新キャラクターで活躍している『NXT』という未来のスーパースターの登竜門的な番組もあります。日本でもBS放送のスポーツ専門チャンネルJ SPORTSでいずれのブランドも放映されており、全ブランドの1週間分のストーリーをダイジェストにした『This Week in the WWE』はTOKYO MXなど関東、関西、東海などの地上波放送でも観ることができるので、ぜひWWEのホームページ(WWE.co.jp)をチェックしてみてください。
こうした番組をチェックしてストーリーを把握して観戦に行けば万全ですが、スポーツ・エンターテインメントは予備知識のない初めてプロレスを観る人でも楽しめる完成度の高いものです。思い切り声をだして応援し、ブーイングすればOK。WWEは五感で楽しむものなのです。お気に入りの選手を応援するお手製のボードを掲げるのもWWEユニバース(WWEではファンをユニバースと呼びます)の定番です。
2015年の日本公演、見どころは?
さて、今回の日本公演の見どころを具体的にいくつか挙げておきましょう。初日の3日大会には今年の3月にWWE名誉殿堂入りした藤波辰爾が来場します。US王者ジョン・シナとNXT王者ケビン・オーエンズの一騎打ちは始まったばかりの旬な抗争です。昨年、新日本から移籍したプリンス・デヴィットがフィン・ベイラーとしてクリス・ジェリコに挑む一戦は日本のファン向けのカード。ジェリコは02年3月2日のWWE単独初上陸の時にメーンイベントでロックと闘ったレジェンドですが、WWEでスーパースターになる前は日本を主戦場にしていたこともあって、今もなお日本での人気は根強いものがあります。
4日大会にはブロック・レスナーが緊急参戦してコフィ・キングストンと激突。レスナーはデビュー5ヵ月でWWE王者になり、日本ではIWGP王座を奪取。さらに総合格闘家としてもUFC世界王者になった実力者です。昨年はハルク・ホーガンが緊急来日して日本のファンを狂喜させましたが、レスナーも一見の価値ありです。
この4日大会でフィン・ベイラーはNXT王者ケビン・オーエンズに挑戦。古巣・日本でWWEでの初戴冠を成し遂げられるか期待がかかります。クリス・ジェリコはネヴィルと対戦しますが、ネヴィルはPACの名前でドラゴンゲートで長年ファイトし、12年には新日本の『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア』に出場してベスト4に残るなど、やはり日本のファンにとっては思い入れのある選手。この試合も必見です。
そして両大会への来日が決定したのがイタミ・ヒデオ。5月に左肩を負傷して欠場を続けていますが、WWEは日本でのヒデオの注目の高さを重視して日本公演への参加を決定。試合に出場できるかは微妙なところで、現時点ではカードには名前が入っていないものの、何らかの形で大会に花を添えるのは間違いありません。
現在進行形のカードにプラスして日本のファンを意識した構成は、ハウスショーならではのもの。日本公演はテレビ放映のないハウスショーと呼ばれるライヴなので、必ずしも連続ドラマに沿ったものではなく、日本のファン向けのアレンジができるのです。ぜひハウス(=会場)で、ライヴ(=ナマ)でスポーツ・エンターテインメントを体感してみてください。なお、アメリカ本国の展開によってはカードが変更になるケースもあるので、こまめにWWEのホームページをチェックしましょう。