江戸時代、食卓に欠かせない調味料だった「煎り酒」
煎り酒は江戸時代まで頻繁に使われていた調味料です。出汁のうま味と梅干の酸味が効いて夏バテ対策にもってこいです。さらに減塩対策にもなる一石二鳥の調味料です。
醤油が安定して供給されるようになり安価になったことで、今では日本酒を使う煎り酒のほうが逆に高価になってしまいました。そのため、現代では忘れ去られた調味料のひとつとなっています。
しかしこの煎り酒、名前に「酒」と入っていますが、煮詰めるためアルコール分は入っていません。さらに、醤油の代わりとして使えるのに食塩含量が少ないため、減塩になると再び注目を集めています。
「煎り酒」は夏バテに効く
夏バテは夏の暑さに対応しようとして、体内のエネルギーが上手く作り出せない状態。減塩で注目を浴びている煎り酒は、ここでも活躍できます。実は夏バテ対策の食材としてもぴったりなのです。体内でエネルギーを作り出すメカニズムを考えてみましょう。糖分(炭水化物)・たんぱく質(アミノ酸)・脂質の3つは、それぞれ代謝を受け「クエン酸回路(TCAサイクル)」と呼ばれる代謝システムに流れ込み、エネルギーを作ります。この名の通り、クエン酸は重要な役割を担っています。
ここで、煎り酒の原材料を改めて確認してみると、日本酒には若干の糖分、鰹節にアミノ酸、梅干にクエン酸が含まれています。そのため、夏の疲労回復にも一役買ってくれることが期待できるのです。
減塩なのに、美味しい
煎り酒は醤油の代わりに、江戸時代まで身近な調味料として使われてきました。しかし、食塩を含む原材料は梅干のみで、食塩含量は醤油のほぼ半分くらい。食塩含量の少ない調味料です。醤油の代わりとして使えるのに、減塩対策になります。そのさっぱりとした美味しさを生む理由は、ダシが効いているから。鰹節をふんだんに使い、ダシを効かせることで「うま味」を引き立たせるのです。
「うま味」というと「おいしさ」と混同してしまうことも多いようですが、その意味は異なっています。「おいしさ」は味そのものだけでなく匂いや食感(テクスチャー)、その場の雰囲気や体調など、食べる時の状況のあらゆる条件が重なることで決まります。
一方、「うま味」は甘味・塩味・苦味・酸味と並んで「5つの基本味」のひとつ。甘味や塩味等、他の基本味は比較的言葉にして言い表しやすいのですが、「うま味」は一言で説明することが難しく、つい「おいしい」と説明してしまいがちであることから、混乱してしまうのかもしれません。
日本人は昔からそんな「うま味」をこよなく愛してきました。その「うま味」を濃くすると醤油や味噌の使用量を減らしても料理の味が濃く感じられるので、食塩摂取量を減らすことができます。これは煎り酒を使う場合のみならず、普段の調理の際にも応用できます。ぜひ「うま味」成分である「出汁」を上手に使ってください。
また、「煎り酒」にはほどよい酸味もありますので、さわやかな味わいがあります。これも食塩が少なくても美味しく感じる理由です。現代でも使われている調味料で酸味を持つものには、食酢(穀物酢、リンゴ酢、黒酢など)、レモン汁などがあります。これらも食塩を含まないので上手に使うと減塩効果があります。