肥満・メタボリックシンドローム

総コレステロールは“食事療法だけ”では下がらない

【管理栄養士が解説】「コレステロールの摂りすぎはよくない」とよく言われます。血中コレステロール濃度が上がり、脂質異常を起こすと考えられていたのです。しかし、コレステロールは体内での合成が70%。食事を制限するだけでは血中コレステロール濃度をコントロールすることはできないのです。その理由は? いったいどうしたらいいの? そんな疑問にお答えします。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

コレステロールとはそもそも何か? 体内での役割は?

和食の例

健康な人にとって食事中のコレステロールはさほど大きな影響を与えませんが、LDLコレステロールが高い場合は注意が必要。LDLが高い人は伝統的な和食を選びましょう。


コレステロールは栄養素の仲間では脂質の一種です。肝臓で生成される酵素である「胆汁」の塊として発見されました。その後、ウサギに高コレステロールの食事を与え続けると動脈硬化を起こすという実験結果が発表され、悪いイメージが定着していきました。

実はコレステロールは、体内では胆汁やホルモンの材料であったり、細胞膜の構成成分であったりと重要な働きをしています。そのため、体内でも必要量を合成していて、その比率ほぼ70~80%だと言われています。

コレステロールについては「食事で改善! 高いのは中性脂肪? コレステロール」でもご説明したとおり、善玉と悪玉があります。善玉はHDLコレステロールのみ。それ以外のコレステロールは悪玉です。悪玉を総称して「non HDLコレステロール」と言うこともあります。悪玉のうち、健診等で高値が見つかった際に治療が必要なのは、中性脂肪とLDLコレステロールです。
 

食事中のコレステロールは制限するべきか

以前はコレステロールの全てが悪玉のように扱われ「血中コレステロールが上がるから、卵は1つまでにしましょう」などという指導がなされていました。しかし最近、米国ではコレステロール摂取量を減らしても血中コレステロール値が下がるという根拠がないという理由から、食事中のコレステロール制限が推奨されなくなりました。

日本でも「日本人の食事摂取基準(2020年版)」にはコレステロールの摂取基準値は記載されていません。食事で制限しても必要に応じて体内で合成するのだから、健康な人に対してコレステロールの摂取制限をする意味はない、コレステロール摂取量と血中コレステロールとの関連性についてエビデンスがない、との見解です。

ただし、LDLコレステロールが高いといわれた場合は動脈硬化のリスクが高く、注意が必要です。
 

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が多いと言われたら……

食事もそうですが、生活習慣・運動も一緒に見直す必要があります

食事もそうですが、生活習慣・運動も一緒に見直す必要があります


健康診断でLDLコレステロールが高いといわれた場合でも、軽度の高LDLコレステロール血症であれば最初からは薬を処方されず、「食事療法」をと指示があることも少なくありません。病院では便宜上「食事療法」と言いますが、実際には食事でコレステロールを制限するのみで、ほとんど改善できません。生活習慣・運動・食事等を包括的に見直す必要があります。
 

食事の見直しだけでなく、生活すべての見直しが大切

日本動脈硬化学会では、LDLコレステロールが高い場合の治療方針について、「ACC/AHAガイドラインに対する日本動脈硬化学会の見解」という見解を出しています。その見解の中で、LDLコレステロールと血圧に影響を及ぼす因子として7つの推奨項目を挙げています。
 
  • 野菜・果物、全粒穀物の摂取、低脂肪乳製品、鶏肉、魚、豆類、非熱帯性植物油、種実の摂取を増やし、甘い物、砂糖含有飲料、牛肉・羊肉(赤肉)を制限するような食事パターンで食べること
  • 上記の食事パターンを、適正なエネルギー必要量、個人的・文化的嗜好、食事療法が必要な各病態(糖尿病など)に合わせる
  1. DASH食パターン、米国農業省食パターン、AHA食などの食事計画を用いる
  2. LDL-Cを低下させるため、飽和脂肪酸エネルギー比を5~6%となるような食事パターンを目指す
  • LDL-Cを低下させるため、飽和脂肪酸エネルギー比を減らす
  • LDL-Cを低下させるため、トランス脂肪酸エネルギー比を減らす
  • 血圧を低下させるため、ナトリウム摂取量を減らす
  1. 一日のナトリウム摂取量を2400mg (=食塩相当量として6.0g)以下にする
  2. 著明な降圧のためには一日のナトリウム摂取量1500mg以下の厳格な減塩が望ましい
  3. 減塩の到達目標を達成できない場合は、一日のナトリウム摂取量を少なくとも1000mg減らす
  • 血圧を低下させるため、DASH食パターンと減塩を組み合わせる
  • LDL-Cとnon HDL-Cを低下させるため、また、血圧を低下させるため、中等度~きつい強度の有酸素運動を40分間、週3~4回実施する

米国での指針をそのまま和訳しただけなので、DASH食等の耳慣れない言葉も出てきますが、これらは減塩の伝統的な日本食と考えればよいとされています。特に海藻を食べること、豆類(特に大豆)を食べることに意味があることも明記されています。

この7つの推奨項目を一言でまとめると「野菜や海藻をふんだんに取り入れた伝統的な日本食を薄味で食し、よく運動すること」と言えるかと思います。

ここで今一度、伝統的な日本食とは何かというと、これも一言で言うならば「定食」の形式です。主食(ご飯、麺、パン)、主菜(肉、魚、卵、豆腐)、副菜(野菜、海藻)がそろった食事です。身体によいからと言って、いきなり毎食、定食を食べることは難しいと思いますが、例えばサンドイッチのような手軽な料理でもパン(主食)、卵(主菜)、レタスやトマト(野菜)の3つが揃います。

最初はこのようにゲーム感覚で「3つともあるかな?」と考えていただくだけでも、後々になって変化が出ると思います。ぜひお試しください。
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