原産地はちょっと意外ですが、どちらもインドです。レモンはインドのヒマラヤ地方から10 世紀頃に中国へ、さらにアラビア半島に伝わり、12世紀頃ヨーロッパに広まりました。オレンジはアッサム地方を原産としており、15世紀頃に中国の広東からヨーロッパに伝わり、地中海沿岸諸国に広まったとされています。カリフォルニアでは19世紀になってから栽培されるようになったのが始まりです。
レモンとオレンジの香りのもとは?
レモンやオレンジの皮から抽出した精油を調べてみると、おおよそ80~90%はリモネンという、炭素原子10個と水素原子16個からできている有機化合物で占められていることが分かっています。これが香りの正体です。しかし、同じリモネンでありながら、光学異性体(鏡を写したように左右逆の構造が違う分子)であるため香りの感じ方が違います。レモンの香りがするのは、そのうちのS(左旋廻)-リモネンで、オレンジの香りはR(右旋廻)-リモネンです。つまり鏡の世界では、レモンはオレンジの香りがするという訳です。
また、ラベンダーなどの香り成分としてよく知られているリナロール (linalool,分子式 C10H18O)も光学異性体があります。ラベンダー、ベルガモット、クラリセージの香り成分はR-リナロールで、それと左右逆のS-リナロールはコリアンダー、ジャスミンの香り成分です。
右旋廻と左旋廻を感じる理由
地球上のタンパクをつくるアミノ酸は左旋廻、DNAの素材である糖はすべて右旋廻です。一方、フラスコ中の化学反応では左旋廻と右旋廻の分子(鏡像異性体)がそれぞれ等量できるにも関わらず、生命体は左右分子のどちらかしか利用していません。生命分子にはなぜ利き手があるのか?科学者の間では「生命ホモキラリティーの謎」と呼ばれ、1860年にルイ・パスツールが問題提起してから150年以上も続く未解決の問題とされています。しかし、私たちの体のもとになっている物質そのものの、左旋廻と右旋廻の比率が違うことは事実で、それゆえに右旋廻と左旋廻の違いが認識されるとのことです。
実に不思議な話です。早く知りたいところですが、これから解明されていくことでしょう。
■参考資料
- 「鏡の国へ行ったり来たり:高分子の鏡像対称性の破れと反転現象を発見」
国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学プレスリリース - 「鏡像異性体をつくりわける」
袖岡幹子 理化学研究所