保健師/保健師の学校について

日本赤十字九州国際看護大学 世界を見据えた看護教育

保健師になるための学校を個別に紹介します。第15回目は福岡県宗像市の日本赤十字九州国際看護大学 看護学部看護学科です。赤十字の伝統を受け継ぐ教育で、海外、そして災害にも強い看護職を育成しています。

西内 義雄

執筆者:西内 義雄

保健師ガイド

国際性豊かな人材育成に力を注ぐ

日本赤十字(以下、日赤)は、世界189の国と地域に展開する赤十字社・赤新月社ネットワークのひとつで、国内外における災害救護をはじめ、苦しむ人を救うための幅広い活動をしています。

看護教育にも力を入れ、日本国内では6大学、1短期大学、17専門学校、1助産師学校を展開。日本赤十字九州国際看護大学はそのひとつであり、とくに国際性豊かな人材育成に力を注いでいる単科大学です。

キャンパスは北九州市と福岡市の中間に位置する宗像市の高台にあり、JR鹿児島本線の赤間駅からバスを利用するのが一般的な通学ルートになります。

保健活動のできる看護職を育てたい

看護学科の定員は100人。保健師課程は選択制で、福岡県の他の大学と同様、18人が基準です。選抜時期は3年前期終了時の9月と、他大学に比べ少し遅めですが、保健師課程にチャレンジするのであれば、3年前期で選択科目の疫学II、保健統計学II、保健福祉行政論IIの3科目を履修していなければなりません。

これは逆に言うと、保健師課程に進むつもりがなければこの科目は取る必要がないと受け取る方もいるかもしれません。しかし、大学側は公衆衛生関連の科目をできるだけ多くの学生に受けてもらいたいといいます。その理由について教務委員長の小林裕美教授はこう話します。

「本学は『国際』を標榜していますし、将来国際で活躍しようと思うのなら、保健師の資格がとても役立ちます。たとえ保健師課程に進めなかったとしても、公衆衛生関連の学科を学んだことは無駄になりません。他大学では本当に保健師になりたい人にだけ絞って授業を行いたいというところもありますが、本学は逆。職業としての保健師ではなく、保健活動のできる卒業生を増やしたいと思っているのです」

小林裕美教授(左)と乗越千枝教授(右)

小林裕美教授(左)と乗越千枝教授(右)

この言葉を裏付けるように、2014年に初めて行った保健師課程の選抜は、必要科目を履修していた人が約70人。そのうちの半数が実際に小論文と筆記の選抜試験を受け、最後の面接とそれまでの成績を加味したうえで最終18人の合格者が決まっています。ちなみに、小論文は「手書き」限定としたそうで、その狙いについて、保健師教育担当の乗越千枝教授は、「真剣な意欲を持って臨んでほしいとの思いもあって、手書きにしました。今の学生たちには辛い作業でしょうが、こうすることで、本気度の高い学生に絞りたかったのです」 

と語っています。

地域との関わりを大切にする授業

看護教育全体の特長として注目したいのは、前述のように卒業生全員が「どこに行っても地域で保健活動ができる」ことを目指していることです。なので、たとえ保健師課程に進まなくても地域看護の視点を重視する実習は全員に体験させています。これは看護師として働くにしても、地域包括ケアの重要性を見据え、病院での退院支援に関わる際に、とても役立つからです。

実習に関しては、福岡県独自の規定により大学主導で実習先の自治体を選べない事情があるものの、地元宗像市とは演習などでしっかり結びついていますので、地域を診る力はより広げられるはずです。まだ予定ながら、他領域の授業のひとつとして、宗像市の離島を舞台に保健活動を体験させようという動きもあるとか。

このように、保健師課程という枠にとらわれず、広く地域に関わることのできる教育体制がとられているのが、同大学らしいところといえます。

日赤ならではの災害看護教育

災害看護教育の充実度も目を見張るものがあります。座学だけでなく、演習もしっかり行い、実践で役立つ教育を行うことが日赤の特長だからです。また、災害をしっかり勉強することは地域を診る目を養うことにもつながるといいます。前出の乗越教授も、

「アセスメントして、判断して、行動する。この3つをしっかりできる人材を育てることが大事なのです。そして、しっかりアセスメントするには『地域の視点』が大切であり、地域で学んだことが実践できるのが災害看護の場でもあるのです」

と、災害看護教育の重要性を説いていました。

なお、平成28年度入学生からは、とくに国際で活躍するための科目を集めた「国際看護コース」を作る予定があります。公的な資格ではありませんが、このコースを取れば、学内で一定の評価を与えるというものといいます。

先生からの熱いメッセージ

今回、2人の先生にお話を聞いて感じたのは、日赤らしい教育を実践しているということでした。その思いは、こんな言葉に表れていると感じました。

「どんなところでも真摯に対象の人と向き合い、健康と向き合い看護実践ができる人材を育てたいです」(乗越)

「私は資格を取ってから看護師として病院で働いてきましたが、病院にいても保健師教育はとても役立ちました。だからこそ、看護師として一生病院で働く人にも地域を見せたいと思っています。とくに本学を目指す方は、看護師として海外で働きたいという方もたくさんいるはず。その時に英語以上に役立つのが地域を見る力なんですよ」(小林)

(大学データ)
日本赤十字九州国際看護大学看護学部看護学科ヘルスプロモーション・在宅看護領域:岡村純教授/小林裕美教授/乗越千枝教授/千原明美助教/上野満里助手/青木佳奈助手
定員:100人
保健師コース定員:18人程度
保健師コース最終選抜時期:3年の9月

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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