不妊症

リプロダクションクリニック大阪 訪問記(2ページ目)

今回は、2013年9月に大阪駅前のグランフロント大阪にオープンした「リプロダクションクリニック大阪」に取材をさせて頂きました。このクリニックは泌尿器科医が男性不妊を担当し、婦人科医が女性不妊を担当し、両方から同時にアプローチできる日本初のクリニックとして、注目を浴びています。既に関西でも有数の不妊専門クリニックに成長しました。

執筆者:池上 文尋

なぜこのクリニックを作ろうと思ったのですか?

このクリニックを作ろうと思ったのが2012年半ばくらいでしょうか。
それまでは不妊専門の大きなクリニックで治療をしていたのですが、婦人科中心の医療ということもあり、男性不妊から考えた時に、少しやりにくかったというのが正直なところです。

男性、女性の患者さんの利益を最大に考えた時にもっと改善すべき点があると思っていました。自分自身のクリニックを作って、もっとスタッフと議論を重ねられれば、さらに多くのカップルを妊娠させることが出来るのではないかと考えていました。
りプロダクション大阪

マイクロTESEを行うオペ室


そして、モデルケースとしてまず男性女性が一緒に気軽に受診し、治療していけるような施設を第一に考えました。男性だけでもダメ、女性だけでもダメ。ご夫婦が主体性をもって共に来ていただくことが女性の心理的なサポートにもつながることは明白だったからです。

今の日本のほとんどのクリニックは婦人科主体で患者待合の女性比率が90%を超えているような状況です。自宅での精液採取などの結果、男性因子によってICSIをしているのにもかかわらず、男性が一度も診察を受けていないケースは多いのです。本当の意味でこれを実現しているクリニックは日本には今までなかったので、ぜひ作りたいと思いました。

ウィメンズクリニックやレディースクリニックという名前にすると、入りにくい、人に見られるというのも嫌だという思いが男性にはある。そして、不妊クリニックで夜診療を行っているところは少ない、日曜日、祝日にも普通に外来診療をやっているところも少ない。しかし、男性は平日仕事をしている人が圧倒的に多いので、夜診もしくは土日しか来院しにくい訳です。

よって、土日祝を全部診療する、さらに商業施設にクリニックを作ることにより、心理的障壁がぐんと下がる。夫婦で共に来院し、診察後に商業施設でご飯を食べて帰ったり、ショッピングを楽しんでもらえれば、そして医療側から男性が一緒に受診しやすい環境を作ることが出来ます。きっとご夫婦ともに来院していただけると考えました。

最初に夫婦一緒に来られることがその後の不妊治療の結果に大きく影響すると感じており、ここを大事にしたいと思っています。小さくこぢんまりとやるつもりはなかったので、多くのスタッフを巻き込んで日本の生殖医療の世界に影響を与えられるような大きな施設にしたかった。そこで開業するにあたり、東京でやるのか、大阪でやるのかで迷いました。
りプロダクション大阪

マイクロTESEを行うオペ室のモニター


2013年4月大阪の超一等地であるうめきたエリア再開発の目玉、グランフロント大阪が開業ということで、発信していくにはもってこいだと考え申し込みました。関西イノベーション国際戦略総合特区ということもあり、ぜひこれにも挑戦してみたかった。

6月着工し、9月15日にオープンさせました。かなりの突貫工事でしたが、私としては日本全国の名だたる不妊専門クリニックの男性不妊外来を担当させて頂いた関係で、各施設の長所・短所をくまなく把握していたこともあり、いいとこ取りで設計をさせて頂いたという面があります(先生方には本当に感謝です)。

そこで力を発揮してくれたのが当院松林院長であり、胚培養士の水田室長でありました。松林医師とは以前より患者さんの紹介などのやり取りがありましたし、人格的にも穏やかで素晴らしいことは判っていました。水田室長とは以前一緒に働いたこともあり、是が非でも一緒にやりたいと強く申し出ました。この2人がいなければ、立ち上げは成功していなかったことでしょう。私という強烈な個性を尊重し、今でもうまく掌で転がしてもらっている感は否めません。

そこから年末まで3か月で採卵件数が100件を超えたので、一気に生殖医学会認定施設にもなりました。

現在、ちょうど開業して一年半ですが、採卵数は130~150件/月、TESEは30~40件/月ぐらい行っています。男性不妊を扱うことが多く、精子の数に限りがあるため、高刺激による採卵が理想と考えています。自然周期はほとんどない中での件数なので、胚培養士にとっては非常にハードな局面が多いですが、ほとんどのスタッフが全国の名だたる施設からの転職組という多国籍軍で水田室長中心に頑張ってくれています。モチベーションを大事にしているので、面接の際には「本気でやりたいか」ということを一番重視しています。
リプロダクション大阪

培養室(ラボ)の様子


開業後、様々なメディアが取り上げてくれたこともあり、全国から患者さんが来院されました。初期の頃はどちらかというとほとんどが無精子症例で、奥さまの年齢が若い症例が多かったのですが、最近ではやはり年齢の高い患者さんが増えてきているという状況です。松林医師のブログでの認知度向上、テーラーメード治療による妊娠率好成績、また北宅医師が加入したことにより、女性不妊症例も一気に増えてきて、現状では男性女性半々といったところです。お二人のライフワークでもある不育・着床障害にも力を入れており、やはり遠方からも多くの患者さんが来られます。

それから、当院では臨床成績はすべて包み隠さず出す方針でホームページにも記載しています。悪い成績も良い成績もすべてです。とにかく透明性をもって、オープンでやらないと患者さんから支持されず、自然淘汰されるのは当然だからです。

TESEでも患者さんには手術中、医師が見ている画面と全く同じ画面を見てもらいながら進めていきます。これもオープン化の一つです。医師、看護師、助手、胚培養士、そして患者さんも同じように確認をしながら手術を進めていくというスタイルです。精子がいたら、みんなで喜びを共有しようというのもあります。

なぜ、そこまで透明性にこだわるかというと、日本の生殖医療の分野においては、きちんとやっているところがさほど多くないと感じていたからです。ちゃんと勉強して、トレーニングを受け、経験を積んでいないのに、男性不妊が得意だ、そしてできます、と宣伝しているところも多々見受けられるので、そういうところとは一線を画しているということです。前医の治療に納得されず、セカンドオピニオンや2回目のTESEを行ってほしいという患者は後を絶ちません。私たちはできること、可能性のあることに対しては全力で精一杯やります。しかしながら不可能なことをさも可能であるかのようにいって治療を引き延ばすことは決してしない。患者さんにも次の人生のステージがあり、ずるずると高いお金を払いました、しかし子供は持てませんでした、ではあまりなことだと考えています。

今後のビジョンについて教えてください

率直にいって、まずは大阪でナンバー1になる。多くの老舗の実力をもつクリニックがありますが、名実ともにしのぐ存在でありたいです。患者数、採卵件数、妊娠率などいろいろな尺度がありますが、どれをとっても負けない、患者さんからもスタッフからも支持されるチームでありたいとの目標があります。そのためには、現在一番重視しているが妊娠率と妊娠数です。現在の日本の体外受精の妊娠率は低すぎます。様々な努力により、きっと改善できる余地があります。

また、我々が特に重視するのはチーム医療。構成するすべての職種に参画を大いに求めますし、様々なディスカッションの中で、前向きな改善点が生まれます。各部署が明確な目標をもってやっていけるよう、様々な取り組みをしています。たとえば、学会発表前の予演会は全スタッフ参加で行っています。また飲めや騒げやの忘年会の前にはYear End Conferenceと称して、一年間の業績、実績のアセスメントと次年度の目標を全部署にプレゼンテーションしてもらっています。

大阪市内の近隣不妊クリニックに声をかけ、コメディカルが参加しやすい研究会もオープン参加として当院で行っています。実際に現場で何が困っているのか、どうすればよいのか、などざっくばらんに議論できる場を提供しています。競合するのではないのですか、とよくいわれますが、お互い切磋琢磨し、大阪の生殖医療が盛り上がればそれでいいわけで、狭量な考えは好きではありません。遠くは千葉県の亀田総合病院からコメディカルも毎回参加してくれます。

そして、いずれ東京に「リプロダクションクリニック東京」を出したいと思っています。

今、当院でも県別の患者数でみると4位が東京から、7位が神奈川から、そして関東以北の患者さんが3割を占める状況なので、わざわざ遠方からも来られている現状があります。遠方治療は正直交通費の面だけでも大変なことです。

男性不妊治療においてはレベルが元々西高東低といわれており、関東地方ではまだまだエビデンスレベルの治療がなされていない部分があるので、我々が進出する意味はあると感じています。そして男性女性両方を同時に診て進めることができるメリットを東京の医療従事者や患者さんたちにも感じて頂き、一刻も早く妊娠していただきたいとの思いがあります。

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