「パイロット版」とは?第一話とどう違うの?
海外ドラマに多額の予算がつぎ込まれるハリウッドのドラマ業界
しかし、海外ドラマには第一話が存在せず、代わりに「パイロット版」が存在したり、第一話の前にエピソード0なる「パイロット版」が存在したりする。
海外ドラマで時々目にする、この「パイロット版」っていったい何なのか?第一話とどう違うのか?
今回は、「パイロット版」のあれやこれやについて、ハリウッドの裏事情を交えながらご紹介していく。
<目次>
海外ドラマの予算は日本の20倍!?失敗が許されない厳しい世界!
昨今、日本ドラマの一話あたりの平均予算はおよそ3,000~5,000万円と言われている。対する海外ドラマのパイロット版の平均予算は、約10億円。実に日本の約20倍である。テレビ離れが進む中、ハリウッドがどこからそんな大金をゲットしているのかは、また別の回でご紹介するとして、とにかく、映画並み、下手したらそれ以上にお金がかかっていることが、数値をみたらわかる。ゆえに失敗は許されない。視聴率が振るわない作品を最後まで制作するわけにいかないのだ(そんなことしていたら、テレビ局がつぶれてしまう!)。
そこで「ヒットするかどうか」の指標として存在するのが、「パイロット版」である。ハリウッド各局には、日本のテレビ局みたく「ドラマの制作が決まったら最後まで放送する」という概念が全くない。考えるのは、「パイロット版」と呼ばれる「仮の第一話」のみで、企画が通ったらとりあえずパイロット版を制作し、ドラマのクールが始まる前に、テレビ放送をする。そこで、視聴者や各雑誌の批評家の反応をみて、続編(つまり第二話以降)を制作するかを決めるのだ。
反応が悪ければ、もちろんパイロット版のみでお蔵入り。多額の予算をかける分失敗は許されない。その失敗を極力避けるためにとられる策が、「パイロット版」の制作なのだ。
ちなみに、無事第二話以降の制作が決まったからって安心はできない。テレビ局には、視聴者の反応が振るわなければストーリーがどんなに中途半端でも容赦なく制作を打ち切る権利がある。
時々、めちゃくちゃ気になるところで終わってしまっている海外ドラマを目撃することはないだろうか。それにはこのような裏事情が隠れている。
約80~100本の海外ドラマのうち、日の目をみるのはわずか1/10
では、実際にどれほどのパイロット版が作られ、どれほどの作品が第二話以降の制作が許されているのだろうか。アメリカには、ABC、FOX、NBC、CBSと主に4つの地上波テレビ局があるのだが、その4局だけで、一年におおよそ80~100程度のパイロット版が制作される。 その中で、続編が制作されるのは、わずか1/10程度。ほとんどの作品が、2話を観ずしてグッバイとなってしまうのだ。
いくら視聴者が「あの作品面白かったのに~!」や「続きが気になるのに!」と念願しても、ドライに切り捨てられてしまうのが、ハリウッドの哀しき掟なのである。
変化しつつある海外ドラマ「パイロット版」と動画配信サービス
Netflix制作でエミー賞を獲得した伝説のドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』
近年、こういった議論がハリウッドで行われている。
世界最大の有料制動画配信サービスを提供する「Netflix」や同じく動画配信サービスを担う「Hulu」などは、テレビ局が制作するドラマを配信するだけでなく、昨今、自社でオリジナルコンテンツを作成し、テレビではなく自社サイトで配信することで視聴者を集めている。
もちろん彼らも、そのドラマが数字を集められるかどうか、事前に分析を行うのだが、それは「パイロット版」制作では決してない。自社がもつ巨大なユーザーデータを活用するビッグデーター戦略を取っているのだ。
ユーザーがどのような監督のどのような作品を好み、どの時間帯にどのような観方をしているかまで徹底リサーチし、自社サービスのユーザーが好きであろうドラマを分析によりあぶり出し、制作している。
2013年に「Netflix」が制作した『ハウス・オブ・カード 野望の階段』がよい例で、ネット配信会社発で、海外ドラマの頂点と呼ばれる「エミー賞」を獲得している。
「パイロット版」でヒットの指標を見なくとも、テレビで放送しなくても、ドラマはヒットするのだということを証明した作品でもある。
このように、視聴者がエンターテインメントに触れる環境が変化している時代だからこそ、テレビ局も柔軟に対応するべきだという意見も多く、近い未来、「パイロット版」は大幅に減少するのではと予測されている。
とはいえ、なくなることはないだろうというのが筆者の予測である。
他のどのエピソードよりも時間と予算がかけられ、制作者の想いがつまった「パイロット版」のファンは多いし、「パイロット版」公開後の各エンターテインメント紙の批評家の評価コメントを楽しみにしている人も大勢いる。また、評価にテレビ局が一喜一憂するのもまた古きよき海外ドラマ文化の一つであるからだ。
今度から、「パイロット版」と呼ばれる「第一話」または「エピソード0」を観る機会があれば、このようば背景を思い出しながら観てみるとより楽しめるかもしれない。
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