心も体も満たされる癒しの町、イポー
イポーの路地裏。古ぼけた壁からは、この町で生きていた人々の息遣いが感じられる
首都クアラルンプールから車で約2時間半。20世紀に錫(スズ)の採掘場として経済発展を遂げた町、イポーにたどりつきます。人口の6割以上を中国系のマレーシア人が占めており、マレーシアの中国系文化をたっぷり楽しめる町です。
周囲を岩山に囲まれていて、雨水が濾過されることから、地下水が大変綺麗です。シャキシャキでみずみずしい極上の“もやし”、大きな柑橘類ポメロは、この水の恵み育ったイポー名物。また、昔ながらの町並みはとても風情があり、映画の撮影スポットとしてもよく登場しています。たとえば、NHKが制作した映画『セカンド・バージン』、マレーシア映画界巨匠、ヤスミン・アフマド監督の作品などは、この町を舞台にしています。最近では、ウィットの富んだ壁画も町を彩り、アートの町としても名を馳せています。
イポーへのアクセス
鉄道「ETS」は1日10便で運航。車内はクーラーがガンガンに効いているので、一枚羽織るものを用意しておこう
イポー鉄道駅。ここから中心地のオールドタウンまでは、車で約5分の近距離
日本からイポーへの直行便のフライトはなく、クアラルンプール国際空港(KLIA)から長距離バスでイポーに向かうことができます。
クアラルンプール市内から移動する場合は、KLセントラル駅発着の高速鉄道「ETS」が便利。2時間半でイポーに到着し、料金は片道35リンギ(約1155円)。到着するイポー駅は、コロニアルの建築様式をとりいれた美しい建物で、町のシンボルです。
また、クアラルンプールのチャイナタウン近くにあるプドゥラヤバスターミナルから、高速バスを使う手もあります。約3時間の道のりで、値段は20~25リンギ(約660~825円)。なお、週末は鉄道もバスも大変混み合っているので、事前の予約をおすすめします。
イポーの歴史
錫が採掘されていた渓谷につながるキンタ川。現在は、夕方になると川のほとりに屋台が現れる
マレーシアの伝統工芸品であるピューター製品。この原材料である錫は、ここイポーのキンタ川渓谷で発掘されており、その影響で急激な経済発展を遂げました。現在は鉱山が閉山され、イポーの町の成長もゆるやかに。また、錫ビジネスの関連で中国系住人の多い町ですが、最近ではインド系のコミュニティーも増加しているそう。オールドタウン地域には、サリー用の生地屋やインド系食材店がずらりと並び、なかには店舗名は漢字のままで、インド料理を扱っている店も。中国系のオーナーがインド系の店主にお店をレンタルしているとか。昔ながらの街並みですが、時代を経て変化しているものもあるのです。
イポーの見どころ1 サン・ポ・トン
イポー市内から車で約15分。近郊のバスステーションからバスも出ている。神秘的なエネルギーも感じる場所
石灰岩で造られた洞窟。その自然な造形美を活かして建てられた中国寺院が「サン・ポ・トン」。イポーにはこのような洞窟寺院が数カ所ありますが、そのなかで最も古い場所といわれています。中は広く、見ごたえのあるスポットです。
イポー見どころ2 ウォールアート
壁画スポットは7カ所。2階建ての家の壁に描かれた大きな作品
観光地ペナンで人気の壁画アーティスト、アーネストさん。彼の作品が、2014年にイポーのオールドタウンにもお目見え。実物の自転車や椅子と壁画を組み合わせることで、飛びだす絵本のように立体的に魅せる手法はお見事!絵のテーマはイポー人の日常で、とくに珈琲カップをもった年配者の姿や、ビニール袋に入れた持ち帰り用のドリンクが印象的です。
ヤスミン・ミュージアム「Yasmin At Kong Heng」。ヤスミン作品はイポーで撮影されたものが多く、それを記念してこの地に建てられた。オールドタウンの小さな路地裏を入ったところにある
マレーシア映画界において、「マレーシア新潮流」とよばれる大きなムーブメントを牽引したヤスミン・アフマド監督。彼女の作品は、東京国際映画祭をはじめ、世界で高く評価され、日本にも多くのファンがいます。51歳という若さで急逝したヤスミン監督の記念館が、ここイポーにあります。生前のヤスミンの写真やヤスミンが語った言葉が飾られ、ヤスミン映画が常時DVDで上映。土日のみの開館です。
イポーのグルメ1 もやしチキン
もやしチキンの老舗「老黄(Lou Wong)」にて。ゆで鶏ともやしは胡麻油と醤油ベースのタレで味つけ
チキンに合わせるのは、ごはんではなく麺。スープ、またはソースを絡めたドライ(写真)を選ぶ
この料理を食べるために、クアラルンプールから車で3時間かけて駆けつける人がいるほどの名物料理。いわゆる、マレーシア、シンガポール、タイなどで食べられているチキンライスですが、イポーのものは旨みの濃い“カンポン・チキン”(地鶏)を使い、イポーの天然水で育ったシャキシャキのもやしを合わせるのが特徴。さらに、ご飯ではなく、つるつるに滑らかな米麺のフォーファンを合わせるのがイポー流。シンプルな調理法だからこそ、水が綺麗なイポーでしか味わえない絶品料理です。
イポーグルメ2 ホワイトコーヒー
カフェチェーン「オールドチェーン」の原点となった「南香茶藝店」は、地元の人で賑わう人気店
マレーシア全土で展開する人気のローカル・カフェチェーン「オールドタウン」。この店の発祥の地が、ここイポーです。イポーの珈琲は、豆を焙煎する際にマーガリンを加え、コクと香りをひき出しつつ、苦さはおさえてあるのが特徴。豆の色が浅いので「白珈琲=ホワイトコーヒー」とよばれています。イポーでは、昔から珈琲を飲む習慣があり、最近では西洋風のオシャレカフェも増えています。
イポーグルメ3 飲茶
イポーの名店「Hong Xing Dim Sum」。マレーシアで、飲茶は朝食に食べるもので、この店も朝7時からお客さんで大混雑
マレーシアでは多くの地域で飲茶が味わえますが、なかでも、広東出身の中国系マレーシア人が多く暮らすイポーの飲茶は絶品です! 肉汁たっぷりの小籠包、ぷりっぷりの海老入りの蒸し餃子、米粉を蒸した皮で包んだチーチョンファン、ほんのり塩味がきいた熱々のカスタード餡入りのパオなど、どれを食べてもほっぺたが落ちます。
イポーのおみやげ
お土産にぴったりの商品が並ぶ「Yee Hup」。値段も手軽で、つい大量に買いこんでしまう
お釈迦様が寝ているように見える山の麓で栽培されているポメロ。人々は仏様のご加護があると信じている
中国系の「ビスケット(餡入りの焼き菓子)」がイポー名物です。昔ながらの素朴な味で、サクッと噛めば、パラパラッと皮が崩れてテーブルに飛び散るのがご愛嬌。ドリアンキャンディーの「ドドル」、ソフトキャンディーのような「飴餅」も人気。また、お湯を注いで出来あがり~のインスタント・ホワイト珈琲もおすすめです。
また、イポーといえば、直径20~30センチの巨大な柑橘類、ポメロを忘れてはいけません。タイ料理でもよく使われている果物で、マレーシア人もポメロが大好き!ここイポーで栽培されていて、町のいたるところで、ゴロンゴロンと丸ごと販売されています。ジューシーで甘酸っぱい実は、暑いマレーシアの気候に、ひとときの清涼感をもたらしてくれます。