肥満・メタボリックシンドローム

ロコモな人がメタボにもなってしまう理由

「ロコモティブシンドロームはメタボリックシンドロームを引き起こす」よく新聞で取りざたされる内容です。でも、「ロコモは運動器の障害でメタボは内臓の話。何がどうつながっているのかよく分からない」そんな人もいるでしょう。今日は、ロコモがメタボを引き起こす、そのメカニズムについて説明します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

ロコモティブシンドロームとは

散歩中の婆孫

ロコモティブシンドロームは運動機能の衰えの指標。メタボリックシンドロームは生活習慣病の指標です。この2つには切っても切れない関係がありました。

まず、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の復習をしてみましょう。ロコモティブとは「自力で動く」ことを指します。人間が動くためには「脳(からの指令が)」「脊髄、脊椎などの神経(を通って)」「骨、筋肉、関節(が動く)」という仕組みが必要です。そのため、脳・神経・骨・筋肉・関節(軟骨)をまとめて「運動器」と呼びます。

ロコモティブシンドロームを平たく言うと、「人が活動するために必要な筋肉や骨が上手く動かせなくなってしまい、日常生活に支障が出ている状態」と思っていただければよいかと思います。ロコモティブシンドロームには数字の基準がなく、7つの日常動作が可能かどうかでチェックします。高齢者など他人をチェックする場合のチェック表はパンフレットの4ページに、自分でテストしてみたい場合には5ページ以降に「ロコモ度テスト」の記載があります。

ここで、ふと思うのは「サルコペニア」との違いです。サルコペニアは加齢・疾病・運動不足・栄養不良などによって骨格筋量が減少している状態を指します。これがゆえに、筋力が衰え歩行困難になるなどの支障をきたします。

サルコペニアは主に筋肉量について言及している概念、ロコモは生活活動に着目した概念と考えると、分かりやすいと思います。

メタボリックシンドロームとは

次にメタボリックシンドローム(メタボ)です。メタボは内臓肥満に着目した生活習慣病予防のための概念です。基準となる数字がしっかり設定されています。

  1. ウエスト周囲径(腹囲(へそ周り)) 男性 85cm以上、女性 90cm以上
  2. 中性脂肪 150mg/dL以上(or/and) HDLコレステロール 40mg/dL未満
  3. 最高(収縮期)血圧 130mmHg以上 (or/and) 最低(拡張期)血圧 85mmHg以上
  4. 空腹時血糖値 110mg/dL以上

(1)に加えて、(2)から(4)のうち2つの条件が重なった場合、メタボと診断されます。

ロコモとメタボは仲がいい

ロコモは運動器、メタボは内科系の概念。一見、まったく関係なさそうに思えるこの2つには深いつながりがあります。どのようなつながりがあるのでしょうか。

答えはシンプル。多少、運動機能が衰えた(=ロコモ)としても、その衰えのスピードは緩やかなので本人は運動機能の衰えについてまったく気に留めていません。そのため、食事量はほぼ変わらず、肥満してしまいます。身体を動かさないで肥満する場合の脂肪は内臓脂肪として蓄積されることがほとんどです。それでは、メタボになってしまうのも当たり前です。

栄養でロコモを予防する!

ここで、ロコモを予防する栄養についてお話しようと思います。ロコモの予防に大切なのは、運動器の健康を保つこと。そのためには、骨と筋肉が健康であることが重要です。

まず骨の健康を保つには「カルシウム」と「たんぱく質」がカギになります。もう1つ骨の健康を守るために大切なことは、骨が常に入れ替わっていることです。私たちの体は、古くなった骨を破壊し、新しい骨を作る作業を繰り返しています。骨を破壊するスピードが骨を作るスピードよりも早くなってしまうと、骨がスカスカになる……いわゆる骨粗しょう症になってしまいます。そのため、骨を作る材料となる「カルシウム」と「たんぱく質」を常に供給し続ける必要があります。

次に筋肉を保つためには、筋肉の材料となる「たんぱく質」のほかに、筋肉中のたんぱく質を活動の材料として使うことのないように「エネルギー源」を確保する必要があります。

「エネルギーが多すぎると肥満してメタボになってしまう」という心配をする人もいると思います。もちろん、エネルギー源の確保と言っても、たっぷりエネルギーを摂ればいいわけではありません。エネルギー源の確保が適切かどうかを知るには、体重の管理を行ってください。体重が増えれば、エネルギー過剰ですし、体重が減るようであればエネルギーは足りません。

ここでエネルギー源についておさらいしておきます。エネルギーを作り出す栄養素は「糖質(炭水化物)」「たんぱく質」「脂質」の3つ。この3つのバランスが悪いと身体に負担がかかります。現代の日本人の食生活では、脂質は摂りすぎの傾向があるため控えめに。たんぱく質源として肉、魚、豆腐、卵は併せて手のひら(指の分は入れません)1つ分くらいが1食分。糖質(炭水化物)は小さめの茶碗(糖尿病の方には子ども茶碗とお伝えします)で1食1杯程度です。これで足りないようなら、野菜でかさましするようにして下さい。

上記の食事の考え方は、ロコモだけでなく、サルコペニアやメタボにも有効です。ぜひ、頭の片隅に控えてください。

「運動と食事」といわれる理由はここに

最後にもう1つ。筋肉を保つために大切なことがあります。筋肉は使わないと「不要なもの」として退化していきます。先にご紹介したロコモのパンフレットにロコモ予防のための運動の方法が記されています。ロコモ予防に大切なことは「動かなければ成長できない」ということです。サプリを飲む、薬を飲む、マッサージをする、温める……、といったことをしてもロコモ対策の効果が出ないのです。

スフィンクスの謎かけ「朝は4足、昼は2足、夜は3歩で歩むものは?」とあります。この答えは人間。できる限り最後まで2足で歩き続けたいというのは、誰もが望むことだと思います。ロコモ予防もメタボ予防も心がけひとつです。

若々しく、1日も長く健康で暮らしていきたいものですね。


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