飯田屋で「どぜう汁ご飯」をいただく


朝といっても昼近くだが、宿酔(ふつかよ)いの倉橋を朝野が訪ねる。「宿酔いには迎え酒をするといいと、飯田屋へ連れ出したのだ。

 客がいっぱい立て混んでいる店の内部は、土間と畳と半分ずつに分れていて、土間に腰掛けた客たちはほとんどすべてが味噌汁でめしを食っている。どじょう汁、鯨汁、しじみ汁、あおみ汁(野菜のこと)、豆腐汁、ねぎ汁、いずれも五銭で、めしが十銭、十五銭也でめしが食える。十五銭という安さに少しも卑下せずに食える、 ── 楽しんで食っているその雰囲気、こうした浅草の空気は、私の心をなごやがにさせるのである。私は畳に上って、ズーとがカワとかいうようなややこしいものを食ったりしないで、土間の諸君にまじってどじょう汁を食いたかった。
(「如何なる星の下に」(講談社文芸文庫)228ページ)

ここに出てくるズーとかカワというのは、ズー鍋(ナマズ鍋)、カワ鍋(クジラ鍋)のことだ。今でも飯田屋は、この小説に出てくる同じ場所にある。はたして、味噌汁でめしを食うというスタイルが残っているのだろうか。
国際通りから今半のある合羽橋本通りにある

どぜう飯田屋 台東区西浅草3-3-2

大きく「どぜう」と看板が出ている。というわけで、平日のお昼すぎに飯田屋さんへうかがった。店内は、今も入ってすぐに土間があるが、小説のようなかんじではない。
なんだかうれしい!

「どぜう汁ご飯 六00円」とある


座敷の方に通され、メニューを見たら、平日の3時までだが、ちゃんと「どぜう汁ご飯」があった。小説のころのようにいろいろな汁があるわけではないが、うれしいねぇ。それにしても今でいえば600円が15銭というかんじなのだろうか。
これはいい

どぜう汁ご飯 六〇〇円

生まれて初めてどぜう汁を食べた。実は、自分はどじょうは苦手なのかとずっと思っていたが、とても食べやすく、おいしかった。感心したのは600円の安い定食の客への接客と、高い客のそれがまったく違わないことだ。こういうところが、長く客に愛されていく理由なのだと思う。

■どぜう飯田屋
東京都台東区西浅草3-3-2
11:30~21:30
定休日:水曜日