介護報酬は9年ぶりのマイナス改定
2015年4月から、介護サービスの価格の基準となる介護報酬が変わります。そもそも「介護報酬」とは、介護サービス事業者や施設が利用者にサービスを提供した場合、その対価として事業者に支払われる報酬をいいます。
原則として1割は利用者の負担で、残りは国や地方の税金と、40歳以上が支払う保険料で賄われています。利用者の要介護度やサービスにかかる時間ごとに単価が定められ、単価は「単位」で表示され、1単位は約10円です。原則3年に1度見直されます。報酬は厚生労働大臣が、社会保障審議会の意見を聴いて定めます。
2015年の介護報酬の改定は平均2.27%の引き下げで、9年ぶりのマイナス改定でした。この2.27%という数字は、介護職員の処遇改善分プラス1.65%(介護職員の賃金を月1万2千円引き上げるのに必要な改定率)、認知症・中重度者への対応分プラス0.56%(事業者へのインセンティブ)を含めた上での数字です。
この改定を受けて、
1. 介護保険のサービスを使う利用者
2. 現場で働く介護福祉士
3. 介護保険のサービスを提供する事業者
この三者にどのような影響があるのかを解説していきます。
要件を満たせば介護職の賃金は上がる方向に
【介護保険のサービスを使う利用者への影響】介護報酬が引き下げられると、原則1割となっている利用者の負担はおおむね減ることになります。
しかし利用者負担は減っても、2015年4月から介護保険が利用できる介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の多床室(相部屋)を利用している住民税課税世帯の人は、8月から1日あたり室料470円が自己負担となります。
さらに、介護サービスの自己負担割合は原則1割ですが、8月からは一定以上の所得があれば2割に引き上げられるため、実質的な負担が増える人も出てきます。先々のことを考えると、手放しで喜ぶわけにはいかないようです。
【現場で働く介護福祉士への影響】
施設に限らず、介護業界は慢性的な人手不足が懸念されており、厚生労働省の調査では団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度には、介護職約30万の人手が足りなくなるとみられています。
介護報酬の引き下げで介護職の賃金が下がらないよう、職員の研修実施などの要件を満たせば、支給される「介護職員処遇改善加算」が拡大されます。厚労省は常勤職員1人当たり月1万2千円の賃上げになると見込んでいます。
ただし、これは利用者に直接的な介護を行う介護職のみで、看護師、生活相談員、事務員、調理師などは対象外です。
【介護保険のサービスを提供する事業者への影響】
介護保険を利用でき、終の棲家ともなる介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、以下特養)は6%弱引き下げられました。
ただし、2015年4月から特養に新たに入居できる人が原則として要介護3以上(これまでは要介護1以上)に変わるのに伴い、重度の人を積極的に受け入れる事業者が優遇され、「看取り介護」(死期まで見守る)に対しては加算がなされます。
一方、日帰りで食事や入浴、機能訓練などを受ける通所介護(デイサービス)の小規模型では報酬が約9%引き下げられました。ただし、認知症の人のケアを充実させるなどの体制を整えている通所介護事業所については認知症加算が新設されます。
今のままでは在宅介護は広がらない
「施設から在宅へ」という国の方針に伴い、報酬が上乗せされたサービスもあります。利用者が通ったり、泊まったり、職員による訪問が受けられる「小規模多機能型居宅介護」は、訪問体制の強化、看取り介護のための看護師らとの連携などで報酬が増えます。ちなみに、介護と仕事を両立する家族に配慮して、通所介護(デイサービス)などの受け入れ時間の上限が拡大され、送迎時に電気の消灯・点灯、着替え、ベッドへの移乗、窓の施錠等などを行った場合もサービスの所要時間に含まれます。
私が約10年にわたって介護していた祖母は要介護5で、自力では身動きもできない状態で常に見守りが必要でした。介護をしていたときに最も大変だったことは、自由に外出ができなかったことです。せめて半日、家族の代わりに祖母を見守ってくれるサービスがあったら、家族は出かけることができたり、休息ができたでしょう。しかし、受け入れてくれる通所介護(デイサービス)が見つからず、断念せざるを得ませんでした。体に管が数本入っている状態では、対応できる職員がいないという理由からでした。
こうした実情を国が理解していない限り、在宅介護推進の実現は不可能だと感じます。
介護報酬の上げ下げでコントロールできない課題が、現場にはまだまだたくさんあるのです。
【関連記事】
介護福祉士とは「介護をする」だけの職業!?