介護福祉士

「園芸療法士」とは?介護職がスキルアップする資格

ここ数年、認知度が高まっている園芸療法。そもそも園芸療法とはどのようなものなのか、さらに「園芸療法士」の資格を取得する方法、どのようなスキルが身につくのかを解説します。

小山 朝子

執筆者:小山 朝子

介護福祉士ガイド

園芸療法とは?

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園芸療法の主役は「人」

花や植物を育てる園芸には、育てるドキドキ感や、採るワクワク感など、心と体を刺激し、健康を育む要素があります。

園芸療法の主役は「人」

この記事のテーマとなる「園芸療法」の主役はあくまで「人」であり、植物ではありません。草花や野菜といった身のまわりにある自然とのかかわりを通して、心の健康、体の健康、社会生活における健康の回復を図ります。

園芸療法では、幼児から高齢者までを対象に、まず対象となる人にとっての解決すべき課題(ニーズ)を明らかにするアセスメントを行い、課題を解決するための目標を設定します。

そして花や緑との関わりを通して興味や意欲を引き出し(実践)、記録・評価を行います。実践には、園芸に利用する道具や作業を行う環境を選択することなども含まれます。

介護福祉士として既に現場で働いている方はピンときたかもしれませんが、アセスメントから実践、評価というながれは、介護福祉士の仕事と共通しますね。

こうしたスキーム(仕組み)に日頃から慣れている介護福祉士にとって、園芸療法を用いる「園芸療法士」は取得しやすい資格だといえるでしょう。

園芸療法士の資格について

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車いすを用いての体験も(IHTの「園芸療法士養成講座」の様子)

園芸療法士とは、園芸療法を実践するために欠かせない豊かな人間性と高度の知識・技術をもつ専門家といえます。

アメリカでは1970年代にAHTA(アメリカ園芸療法協会)が設立され、園芸療法士の育成が行われています。

現在、日本では園芸療法士の国家資格はありませんが、園芸療法を日本において発展させることなどを目的に2008年(平成20年)設立された日本園芸療法学会が認定する園芸療法士資格がスダンダードな資格となっているようです。

日本園芸療法学会が設けている主な資格は、
  • 認定登録園芸療法士(毎年審査)
  • 専門認定登録園芸療法士(毎年審査)
です。いずれも学会員であることが条件で、5年ごとに資格更新が義務づけられています。

同学会の「認定登録園芸療法士」を取得するためには、以下のようなプロセスを経ることが必要となります。

1. 一次試験(筆記)
四年制大学もしくは同等と認められるものを卒業し、園芸療法に関する実習500時間を修了した人は、筆記試験および面接試験に合格後、認定登録園芸療法士になることができます(ただし、500時間の実習に関しては、日本園芸療法学会 専門認定登録園芸療法士の指導のもとでなければならない。やむなく専門認定登録園芸療法士の指導が受けられなかった場合は、事務局に500時間の実習内容証明書を提出の上、相談すること)。

2. 二次試験(面接)
学会認定教育機関(東京農業大学・IWAD環境福祉専門学校)、もしくは学会認定教育講座(日本園芸療法研修会・園芸療法研究会西日本・千葉大学・恵泉女学園大学)で200時間の座学(講義および演習)と500時間の実習を修了した者に関しては、筆記試験が免除となります。

上記の条件をみると、日本園芸療法学会の認定資格取得はハードルが高いと感じた人も多いでしょう。そこで、「もっと短期間で基本的な知識を身につけたい」「現在就いている仕事に園芸療法をいかしたい」というような場合には、各任意団体が独自に資格・称号を認定している養成講座で学ぶ方法もあります。

「園芸療法士養成講座」の気になる費用

園芸療法士

園芸療法とは?

費用やカリキュラムの内容について、『IHT(いばらき園芸療法研究会)』で開講されている「園芸療法士養成講座」のケースを紹介しましょう。
IHTは、園芸療法や園芸療法に関連する事業の啓蒙・普及に努める任意団体です。

IHTの養成講座(2018年)では、全8回からなる「基礎コース」と全7回からなる「応用コース」、さらに基礎コースと応用コースを合わせた、全15回からなる「1年間コース」に分かれています。

「基礎コース」は主に午前が講義、午後が農園芸実習のスタイルで進められ、講義は「高齢者・認知症の理解と支援」や「精神疾患・発達障害の理解と支援」といったテーマで行われました。農園芸実習は無農薬、有機農法で行われています。

「応用コース」は基礎コース修了者のみ受講可能で、園芸療法活動の実践に向け、「記録と評価」、「企画書の立て方」といったテーマでより具体的な手法について学びます。最終日には提携施設で園芸療法活動の実践も行われます。

気になる費用ですが、「基礎コース」は8万円、「応用コース」は7万2000円、「1年間コース」は15万円(いずれも税別/教材費、IHT年会費、外部実習先や会場までの交通費などは別途)です。

上記の基礎コース修了者は『IHT准園芸療法士』に認定されます。基礎コースを経て、さらに応用コースを修了した人は『IHT正園芸療法士』に認定されます。1コマごとの聴講も可能で、この場合の聴講料は4000円(税別/聴講できない授業もある)です。

IHTでは、「1年間コース」の修了生に同会のアシスタント・講師を依頼することもあるといいます。独立して講師をする方も多いようです。
修了生からは「修了後、月刊誌の執筆やイベントの講師など実践の機会に恵まれた」「地域・学校・施設など活躍の場が広がった」という声が聞かれています。

ちなみに、2019年のIHT養成講座では園芸療法が一日体験できる初級コース(15000円+税、材料費等込)が新設されるとのこと。まずは初級コースから始めてみるのもオススメです。

園芸療法士が活躍する職場

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視覚を失った状態での歩行体験(IHTの「園芸療法士養成講座」の様子)


現在、以下のような現場で園芸療法士が活躍しています。
  • 医療分野
身体機能の維持や回復・痛みの軽減を目的としたリハビリテーションをはじめ、精神医療や慢性期医療(急な手術などが必要でない状態)、緩和ケア(重い病を抱える患者や家の体や心のつらさを支える)の現場などで園芸療法が行われています
  • 福祉分野
高齢者福祉分野では、認知症の予防やうつ症状の緩和をはじめ、生活の維持・向上を目指します。障害福祉分野では、活発的な生活や就労の支援を目指します

  • 農園芸・造園分野
農業従事者をはじめ、造園の施工や管理を行う企業が公園や広場などにおける市民の健康増進の目的などで園芸療法を学ぶ人も増えているようです

現在、介護福祉士や社会福祉士、ヘルパーなどの資格をもち、現役で働いている人が園芸療法を学び、現在の仕事にいかすケースが多い印象を受けます。園芸療法を学んだことが給与に反映されるケースは現在のところまだ多くないようですが、介護福祉士の資格をもっていても実際に働いていなかった人が「園芸療法士の資格を新たに取得することで、復職するきっかけになった」というケースがありました。

最近は「園芸療法士」を募集する病院や介護施設もあり、専任の園芸療法士として医療機関に就職する人もいます。

加えて、近年は「子育て・教育の分野」からの注目・要望も高まっているようです。

時代とともにニーズが高まる園芸療法

「高齢者のケアに園芸を取り入れたい」と思っている人はもちろん、講師としてその魅力を伝える、地域に活躍の場を広げる、というキャリアアップも夢ではないかもしれません。

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介護の現場でも注目される園芸療法
 

関心がある方は「園芸療法」の学習にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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