十二夜の世界を彩る登場人物たち
(写真提供:東宝演劇部)
『十二夜』×日生劇場でガイドがまず思い出すのは1986年に上演された『野田秀樹の十二夜』。タイトル通り、野田秀樹さんのアレンジが加えられた『十二夜』で、主演は大地真央さん(大地さんは後に鵜山仁氏の演出で『十二夜』のミュージカル版にもご出演)。
野田版の十二夜が言葉遊びや早口の台詞など、かなり遊眠社色が強い=ある種の小劇場テイストに満ちていたのに対し、ジョン・ケアード版の『十二夜』はオーソドックスに……そして美しく立体化されています。その中で音月さんは宝塚の男役トップスターだった経歴を活かし、見事に3つのキャラクターを演じ切っていました。
(写真提供:東宝演劇部)
恋する青年でありながら、時に強気だったり傲慢とも思える発言を口にする辺りから、当時の身分制度による人間関係を感じ取る事が出来ます。オーシーノにとってオリヴィアへの恋は、生まれて初めて思い通りに行かなかった事なのかもしれません。
(写真提供:東宝演劇部)
(写真提供:東宝演劇部)
オリヴィアに仕える執事・マルヴォーリオ役の橋本さとしさん。開幕前のインタビューでも伺った通り、まさに”喜劇と悲劇を1人で担う”役どころ。〇〇〇走りのフォーム(←是非劇場でご確認を!)も、騙されてオリヴィアが大嫌いな服装で登場する時も客席の爆笑を誘います。
確かに他者に対して不遜な態度を取るマルヴォーリオなのですが、そこは橋本さんのお人柄か、憎めなさ感も漂い、愛すべきキャラクターになっています。この造形はジョン・ケアード氏の目論見通りといた所でしょうか。
忠実に仕事をしようと奮闘し、その事で周囲から嫌われ、罠にはめられても素直にそれを信じ、騙されて笑い者になりながら最後は1人で暗闇の中に消えていく……この役に自身を重ね、終盤うるうるしてしまう働く大人の男性も少なくないかもしれません。
(写真提供:東宝演劇部)
ジョン・ケアード版の『十二夜』には他にも魅力的な登場人物が満載!自分たちを「三馬鹿トリオ」と呼ぶフェイビアン(青山達三)、サー・トービー(壌晴彦)、サー・アンドルー(石川禅)や、オリヴィアの侍女で、この3人をそそのかし、マルヴォーリオを笑い者にしようとするマライヤ(西牟田恵)、道化として活躍するフェステ(成河)、セバスチャンを崇拝し彼を守ろうと自らの身を投げ出すアントーニオ(山口馬木也)、ヴァイオラを助ける船長(宮川浩)など、様々な分野から集まった腕のある俳優達がシェイクスピアの世界を生き抜きます。
フェステ役の成河さんの身体能力は観ていて爽快で、同じくジョン・ケアード氏と組んだ『夏の夜の夢』(2007年・2009年 新国立劇場)の妖精・パックを想起しましたし、『レ・ミゼラブル』オリジナル版でマリウスとジャベールの二役を演じた石川禅さんが演じるサー・アンドルーからは、可笑しさと共に誰からも愛されない男の哀愁を感じ取りました。
小劇場への出演も多い西牟田恵さんのマライヤは、身分制度の中、何とかサーの称号を持つ相手との恋愛を成就させようとする女性の賢さと狡さを明るく体現。ラストシーンで、船長とアントーニオの繊細な感情にフォーカスを当てたのは、『レ・ミゼラブル』でプリンシバルからアンサンブルまで、全ての登場人物をリアルに描き出したジョン・ケアード氏ならではの視点だなあ、と。
(写真提供:東宝演劇部)
喜劇でありながら、幸せになるカップルたちの他に、この先ビターな人生を生きるであろう登場人物たちの姿も描かれている『十二夜』。ラストにフェステ=道化の主導により全員で歌われるどこか切ない旋律のナンバーが深く心に刺さります。
開幕前、ガイドがお稽古を拝見した日の終盤は、カーテンコールの流れを作るという時間だったのですが、ジョン・ケアード氏の「これまでは当時の身分制度についてレクチャーをし、一緒に考えてきましたが、ここから先は身分も役も関係なく誰でも前に出て来て下さい」と、段取りを説明しながら出演者達に向かって話す姿にカンパニーの”絆”を感じたのでした。
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『十二夜』
~3月30日(月)日生劇場にて上演中。その後各地での公演有。
⇒ 公式HP