――ジェームズさん、大坊珈琲店のどういうところが特に心に残ったかをお聞かせください。
ジェームズ・フリーマン氏(以下敬称略):大坊珈琲店のことは鮮明に覚えています。他のどの喫茶店よりもパーソナルな想いがつまっていたと思います。空間に大坊さんの個人的な想いが反映されているのが印象的でした。
言葉を介さないコミュニケーションの場所
――昨日、青山カフェでリテイルマネージャーの宮崎さんと大坊さんがお話をされたときに、「大坊珈琲店のようなお店では、言葉を介さなくても、一杯の珈琲やマスターの所作を通してコミュニケーションが可能なのではないか」という話題になりましたが、ジェームズさんはそのようなことをお感じになったことがありますか?フリーマン:面白いですね。大坊珈琲店の整然とした空間の中に入っていくと、ピースフルな空間が創造されているのが感じられました。私はいつも「この秩序を乱してはいけない」と思いながら座っていたんですが、それは心地よい不思議な感覚でした。
大坊勝次氏:相手によって、わかりあえることはそれぞれ違うと思うんです。家族にしか話せないこと、仕事での話、笑ってくれる親友でなければ話せないこと。それと同じように、コーヒーには、人それぞれに好む要素がたくさんあると思います。作った人と飲む人の間で、その要素のひとつひとつを探したり、発見したりする。それをわかりあうという関係が無言のうちに生まれるんじゃないかと、私は感じていたんです。
フリーマン:そういうお考えでお客さまに対峙されていたことを、とても美しいと思います。
大坊:作る人は作る人でこだわりたい要素がたくさんあるし、飲む人は飲む人で、自分の好みから出発して、こだわりたい要素がたくさんある。そこがコーヒーの楽しいところで、それだけ要素がたくさんあるということは、どんな作り方をしてもいいし、どんな飲み方をしてもいいってことになるんじゃないか。おいしいコーヒーには、そんな自由があるんじゃないかと思います。
フリーマン:私も同じ想いでコーヒーに向き合っています。先日、常連客からメールをもらったんですが、そこには「ブルーボトルにはコーヒーだけじゃない何かがあって、そのために通っている」と書かれていました。
「ていねいな仕事は伝染するのではないか」と大坊さん。次ページでどうぞ。