金井宏之初代館長の足跡
続いて世界的に有名な収集家であり、有馬切手文化博物館を創設した金井宏之さんについて紹介したいと思います。金井さんが切手収集を開始したのは、5歳の時のこと。お祖父さんが経営していた紡績機器の会社に届いたギリシアからの手紙に貼ってあった切手がきっかけとなったそうです。8歳になると、神戸元町3丁目にあった栄屋という切手屋さん通いが始まり、1940年には林勇商会で外国切手3,000種のパケット(セット売り商品)を買い、1938年版のスコットカタログで整理しながら、1種1枚ずつのゼネラル収集を行いました。1946年までに約5万種を集めたそうですが、思い切って売却し、それ以来は日本、モーリシャス、フィンランドの専門収集家としてのキャリアを歩むことになります。
切手の本場イギリスが認めた収集家!
「ミスター・カナイ」の名が世界的に知られるのは、1978年6月にモーリシャスの切手の専門コレクションを発表し、国際展の最高賞にあたるグランプリ・ド・ヌールを受賞したことが大きいのですが、それと同じくらいにモーリシャス切手を収集して得た知見を英文でまとめ、1981年に「クラシック・モーリシャス」(Classic Mauritius)としてスタンレー・ギボンズ社(Stanley Gibbons Ltd.)から出版したことも重要です。スタンレー・ギボンズ社は、切手商が軒を連ねるストランド大通り399番に所在する世界的に有名な切手商。1914年には英国王ジョージ5世(切手収集家)から「英国王室御用達」の栄誉を受けた名店であり、同時に権威ある切手文献の版元としても知られています。ここで日本人が著作を発表したこと自体が画期的だったのです。
イギリス海外植民地切手の第1号
加えて言うべきは、モーリシャスという主題の重要性です。モーリシャスは東アフリカの沖合いに浮かぶ小さな地域に過ぎませんが、モーリシャスで最初に発行された「ポストオフィス切手」は、イギリス海外植民地が独自に切手を発行した例としては第1号であり、イギリスの切手紳士たちにとっては非常に重要な意味を持ちます。金井さんは1971年に「ポストオフィス切手」を2枚貼った「ボルドーカバー」を入手するなど、確認されている27枚のモーリシャスの最初の切手(ポスト・オフィス切手)のうち6枚を入手。精力的な収集と詳細な調査を行い、その名声を不動のものにしました。次のページでは、金井さんが日本切手研究の中で残した足跡について、紹介したいと思います。