アート・美術展/アートの楽しみ方入門

現代美術とは?2~西洋美術と日本画の視点から

現代美術は難しい、分かりにくい。そういった声をよく耳にします。現代美術に関わる人たちの話を聞きながら、3回シリーズで「現代美術とは?」をひも解いて行きます。

藤田 千彩

執筆者:藤田 千彩

アートガイド

前回の話を聞いて、私藤田は「たった今、この時代に生きて出会えるからこそ、現代美術を理解したり、作品を見ていろいろ気付いたり、考えさせられるのだなぁ」と再確認しました。今回は過去からつながる美術を取り上げ、現代美術とのつながりを考えていきます。まずは、大学で画家のゴーギャンを研究をしていたという、群馬県立近代美術館の学芸員の田中龍也さんに、西洋美術の観点で話を伺います。

「現代美術」は前の世代の表現を乗り越え、
新しい表現、運動を次々と生み出していくもの

藤田
「近代美術」と言われて想像するのは、ヨーロッパの画家たちによる貴族の肖像画だったり、パリの画家たちが描いた風景画だったりします。そういう「近代美術」と、絵画に限られないで写真やインスタレーションといった表現が多様な「現代美術」がつながっているのか、区別すべきものなのか、なんなのでしょう。

田中

「近代」、「現代」という言葉は、第一義的には時代を区分するものですが、どこまでが近代で、どこからが現代か、という明確な区分を設けるのは難しいようです。ただ一般に「現代美術」という場合、それは時代区分として現代の美術を指しているわけではありません。その時代における既存の価値観に揺さぶりをかけるような、「新しい表現を切り拓いていこうとする美術」を指しているわけです。

クロード・モネ《ジュフォス、夕方の印象》undefinedundefined1884年undefined油彩・カンヴァスundefined59.5×81.0cmundefined群馬県立近代美術館(群馬県企業局寄託作品)

クロード・モネ《ジュフォス、夕方の印象》  1884年 油彩・カンヴァス 59.5×81.0cm 群馬県立近代美術館(群馬県企業局寄託作品)


 
藤田
現代の美術といっても、19世紀後半の印象派のように、たった今でも、アルプスとかセーヌ河を描く画家はいますもんね(笑)。そうじゃなくて、印象派が生まれた19世紀後半当時は「これまでと違う表現の絵画」つまり「前衛的だ」と言われていた、と聞いたことがあります。

田中
美術用語に「アカデミックな表現」という言い方があります。この「アカデミック」という言葉は、印象派が生まれた19世紀後半当時、筆跡を残さず絵を美しく仕上げるような美術の規範を意味しました。しかしフランスのモネをはじめとする印象派の画家たちは「アカデミック」からはみ出し、素早い筆の動きで、光や大気の一瞬の表情をとらえました。既存の美術の価値観から見れば、それは受け入れがたいものでした。藤田さんが聞いた「前衛」と言ってもいいでしょう。「前衛(avant-garde)」とはもともと軍事用語で、権威や前の世代を打ち破り、前へ進む、といった意味を持ちますからね。印象派の画家たちは当時、その時代に生きる感覚を表現するため、新しい表現方法を必要としたのです。

藤田

なぜそういう表現の変化が起こったのですか?

田中
背景には、社会の急速な変化と発展があります。印象派が生まれた時代のヨーロッパで言えば、産業革命後の工業化により社会の構造は劇的に変化していきます。また市民革命を経て、かつては王侯貴族のものだった美術が、市民層のものとなって大衆化していくと同時に、美術作品を販売するマーケットが開拓され、ジャーナリズムや批評が発達していったわけです。そうした土壌において、大衆の人気を集める作家(アーティスト)が活躍する一方で、時代変化に即した新しい表現を開拓していこうとする「現代美術作家」が現れてきたのです。

藤田
なるほど、作品を表面的に見ているだけでは同じような風景や人物ですが、歴史などの背景を知ることで、作品の変化が分かるんですね。それが分かると、今の時代も「一般の人が知っているアーティスト、分かりやすい美術作品」と「何かよく分からない現代美術作品」はベツモノです。

田中
そういった観点から見れば、それまでの絵画の規範を打ち破った印象派は「現代美術」だったと言えます。さらにその印象派に対して、目に見えるものを描いているだけだと批判し、色彩や形に象徴的意味を込めたゴーギャンが登場するなど、「現代美術」は前の世代の表現を乗り越えては、新しい表現、運動を次々と生み出していくものなのです。

藤田
美術に限りませんが「新しい」ものは、必ずしも「私も分かる」というものでなく、「なんだこれは?」から始まる気がします。田中さんが考える「新しい表現=現代美術」の理解のしかたや解決法を教えてください。

鬼頭健吾《active galaxy》undefined2014年undefinedガトーフェスタ ハラダ 本社ギャラリーでの展示風景undefined撮影:木暮伸也

鬼頭健吾《active galaxy》 2014年 ガトーフェスタ ハラダ 本社ギャラリーでの展示風景 撮影:木暮伸也


 
田中
わかりにくいのは当然のことです。それまで誰も表現したことがないものを表現し、やったことのないことをやろうとしているのですから。私が働く群馬県立近代美術館では、今年2015年1月24日から3月22日まで、現在ベルリンを拠点に活動する鬼頭健吾の個展「Migration“回遊”」を開催します。今回展示するのは、赤や青、黄色などのアクリル板が差し込まれたポストカードスタンドを、展示室に点在させるインスタレーション《active galaxy》。

ランダムに回転するポストカードスタンドを一方向から眺めるのではなく、展示室を自由に歩いて見て回ってください。カラフルなアクリル板が反射する光、透過する光の乱舞に取り囲まれます。展覧会を担当している私も実はまだ作品の意味を分かっていませんが、実際の作品を体感して分かること、考えることがあるはず。「自分と違った価値観、考え方を受け入れて、新しい発見をしてく」ことが、現代美術の味わい方ですよ

藤田
作品を見ても分からないとき、素通りするのもイヤだし、何か理解する足掛かりが欲しいです。

田中
作家のことを知り、その時代、環境のことを知れば、作品を理解するヒントが得られます。現代美術の場合、作家は私たちと同じ時代を生きているわけですから、過去の作家たちよりも、共有できるものが多いはずです。まず理解しようとする態度を持つこと、そしてそのためのヒントを主体的に探すことが大切だと思います。作家自身の言葉や、展覧会での解説、批評なども役に立つと思います。

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