JRの高架下は希少価値、
9キロの使い方ひとつで街が変わる
秋葉原や阿佐ヶ谷に限らず、高架下自体は他線にもあるし、空いている場所などたくさんあるように見える。もっと活用すれば良いのにと思うが、実際に使える場所はそれほど多くはないのだと言う。「一見空き地のように見えてもJR側に使う予定があったり、電気、水道などが通っておらず使えないなどの場所もあり、数年に1カ所使える土地が出るかどうか。JRの高架下は非常に希少なのです」。
その希少な高架下が9キロにも渡って生まれたのが三鷹~立川間である。実際には変電所その他の支障もあり、すべての高架下が使えるわけではないが、これだけの空間があれば、かなりのことができる。実際にどのような開発が進んでいるのかを、高架下空間開発のための2012年に設立された中央ラインモール開発本部長の丸山勝さんに聞いた。
「首都圏内では人気の高い中央線ですが、沿線全体としては高齢化が進んでおり、JRとしては若い人たちにもっとこの沿線を選んでもらいたい。そこで、弊社が駅を中心とした魅力ある街作りを担当、人と人、人と街、街と街など、いろいろなものを高架下空間を介してつなげる仕事をしています」。
駅隣接の商業施設、高架下空間、エリアマガジンなど
多種のツールで人、街、世代、文化などをつなぐ
具体的には2012年9月の西国分寺に始まり、2013年5月に武蔵境、2014年1月に東小金井、2015年春予定で武蔵小金井と国立にnonowaと呼ばれる高架下商業施設を作っており、そこを起点に駅間の高架下空間の開発を行っている。駅と駅をつなげているわけである。名称であるnonowaとは「武蔵野のわ『輪・和』」だそうで、2012年11月から先行してエリアマガジンとして同名の「ののわ」が創刊されている。ここで注目したいのは「ののわ」の編集に携わる人、記事に登場する人の多くが地域で野菜作りや子育て支援、街作りその他で活動をしている人であるということ。エリアマガジンを通じて地域の活動や文化、コミュニティをつなげているわけで、こうした人たちとのネットワークは高架下活用についても生かされている。
高架下のののみちには植栽、ところどころにベンチ、マップなどが用意されており、ぶらぶら歩くには楽しい空間。地図や各所の掲示には近隣の名所、歴史なども書かれており、街を盛り上げようという意識が分かる(クリックで拡大)
「もともとは三鷹で営業されていたカフェで、地元の野菜を売ったり、展示スペースを設けたりと地域に開かれた店でした。そこでまちカフェとして出ていただくことに。駅ならまだしも、駅間はその価値が分かりにくいこともあり、ナショナルチェーンには出店してもらいにくい。であれば、逆に地元の人に利用してもらい、人が集まるようにしていくのが大事かなと考えています。エリアマガジンは地域と一緒になった街作りをするためにどうすれば良いかと考えるためにとりあえず媒体を作ったものですが、それが少しずつ地域に浸透、いい形で活かされるようになってきています」。
同様に東小金井駅から武蔵小金井に向かう高架下、ののみちヒガコ東には地元でモノ作りをしている人たちが工房、ショップを構えている。
「この地域で毎月月初に『はけのおいしい朝市』という作り手が食品、雑貨、革細工その他の商品を直接売る活動をしていた人たちがいらっしゃり、そのうちの5人に出ていただきました。手作りなのでそれなりの単価になりますが、こだわって良いものを提供することで他との違いを出していきたいと思っています」。
こうした人たちが中心になってまちびらき時には朝市、マルシェなども開かれており、地域密着の施設作りが行われている。ただ、残念なのは全体としてはかなりの数の店が入ることになるため、すべてを地元の店舗で賄うとまではいかないこと。今の段階ではごく一部に限られているが、これがもう少し増えてくると雰囲気も変わるかもしれない。
また、商業施設以外にも保育園や子育て支援サービス、メディカルモールなどが入っており、その点での地域貢献も意識されている。
「若い子育て世代にとって保育園の有無は居住を決める大きなポイント。自治体とも協議、作れる場所には作っていきたいと考えています。同時に子育て支援施設、医療施設、介護施設と世代の異なる施設を連携することで多世代間のコミュニティが生まれればとも考えています」。
人と街をつなぐものとしてはサイクルシェアリングサービスSuicle(スイクル)が導入されており、この1年ほどで徐々に利用者が増えているという。平坦な土地でもあり、駅間を通行しやすくなれば、行動範囲は広がる。エリア内での人の交流が活発化することは地域の活気にもつながるはずだ。
今後も続く開発、
街の将来には地元からも期待
以上、新たに生まれた高架下で何が行われつつあるかを紹介したが、それはどのように受け止められているのだろうか。答えのひとつがまちびらきを記念して行われたイベントの様子から見てとれる。2014年10月31日に行われたハロウィンパレードでは親子で総勢500人の参加者を募集したが、募集開始から2週間としないうちに満員に。同時期に募集開始された高架下利用のガーデナー講座は募集人数が15人と少なかったこともあり、わずか数日で満員御礼。街で行われるイベントに参加してみたいと言う人が多いこと、今後に期待する人が多いことがよく分かる。
東小金井の高架下は海外の通り風に作られており、飲食店やブティックなどが並ぶ。ちなみに東小金井は現在駅周辺の整備が行われており、これまで開発されていなかった分、住宅価格などが安め。狙い目かもしれない(クリックで拡大)
最後に地元の商店街との関係について。最近の駅構内などの商業施設等の充実ぶりは地域の商店街にとって脅威という言葉をよく聞く。今回のエリアでも反対が起きたそうだが、街の魅力を高め、住む人に選ばれる街を作るという点での利害は共通のはず。住む側にたって考えた共存を目指していただきたいと思う。