糖尿病/糖尿病対策の生活・運動療法

プチ断食と糖尿病……安全に出来るだろうか?!

糖尿病患者だって食欲のない時は食事をパスしたいし、ウエストが気になったらプチ断食もしてみたい……。しかし、糖尿病患者の断食には低血糖のリスクが常に伴うので医療プロバイダーはあくまでも否定的です。

執筆者:河合 勝幸

糖尿病患者プチ断食に賛成する医師はいません。しかし、外科手術の全身麻酔や内視鏡検査では糖尿病患者もプチ断食に直面します。

糖尿病患者プチ断食に賛成する医師はいません。しかし、外科手術の全身麻酔や内視鏡検査では糖尿病患者もプチ断食に直面します。

糖尿病患者だって食欲のない時は食事をパスしたいし、ウエストが気になったらプチ断食もしてみたい……。しかし、糖尿病患者の断食には低血糖のリスクが常に伴うので医療プロバイダーはあくまでも否定的です。しかし、イスラムのアラビア暦ラマダンの月には全世界の約16億人のイスラム教徒が断食を行い、糖尿病患者の多くも参加しています。2001年のイスラム教諸国13ヵ国の合同研究(EPIDIAR)では1型糖尿病患者の43%、2型糖尿病患者の79%が断食を実行し、2010年には世界規模で5000万人以上の糖尿病患者が夜明け前から日没までの一切の飲食を断つこの宗教行事に参加していたと推測されています。

そのため、糖尿病のプチ断食のノウハウはイスラム教の国々の医療機関の実績が頼りになります。わが国でも低血糖を起こしにくいインクレチン関連薬や、とても安定したベーサルインスリンの「トレシーバ」が使えるようになったので、昼食をパスすることが安心して出来るようになったと思います。まず、ラマダンのプチ断食の心得を紹介しましょう。

安全が第1です

糖尿病はインスリンの過不足があって血糖値を一定の範囲に収められない病気です。そのため食事の内容を適切に分配して、1日3回に分けて薬とのバランスを取りながら血糖値を安定させるようにしています。ラマダン(9月)の原義は「暑い月」ですから、この時期に日中の水と食を断つのは大変です。しかし、日没後の夜食はお祭りみたいな食事ですから、夜のごちそうと日中の断食という極端な血糖上昇と下降を、なんと29日~30日(太陰暦)も繰り返すことになります。

それゆえ、糖尿病患者はラマダンの前に医師のチェックと打ち合わせをすることが求められています。同じことが美容と健康のためにプチ断食を考えている私達にも必要です。わずか週1回食事を抜くだけでも治療薬の調整、食事プラン、水分補給などの計画を医師に相談してみましょう。最も大切な問題は「どんな時にプチ断食を打ち切るか」ですが、そのためには血糖自己測定の習得も必要です。

(プチ)断食のヘルス・リスク

食事を取らないでインスリンや経口血糖降下薬を使うことは低血糖のリスクを高めます。
上記のEPIDIARではラマダンの間に病院に搬送された重い低血糖の1型糖尿病患者は通常より4.6倍、2型糖尿病患者は7.5倍にもなりました。2型が増えたのは奇異ですが、もともと介護が必要な低血糖が少ないのでリスクが高まったのです。

プチ断食でも、続けるとリスキーな糖尿病患者は、妊婦、低血糖やケトアシドーシス(酸血症)を起しやすい人、血糖管理の悪い人たちですが、肉体労働者、一般の病人もこのグループに入ります。私達は宗教上のプチ断食ではないので、水を断つことはありませんが、イスラムのラマダンでは脱水による腎臓や心臓の重い合併症が課題になっています。

断食しているのに「高血糖」が問題になるとは意外でしょうが、ラマダンでは高血糖で病院に搬送された2型糖尿病患者は通常の5倍、1型糖尿病患者では3倍になったという報告が上記のEPIDIARにあります。日没後と夜明け前に取る食事がごちそうシーズンなのでどうしても食べ過ぎるという面と、患者が日中の断食を控えてインスリン等の血糖降下薬を減らしてしまうことが考えられます。また、1型糖尿病では日常のコントロールが悪いとケトアシドーシス(酸血症)のリスクが高まり、特に断食に備えてインスリンを過度に減らすとこの危険なケトアシドーシスの要因になります。

プチ断食から離脱するタイミング

糖尿病患者にとって最も大切なことは、プチ断食を止める判断です。もし、血糖値が70mg/dl未満の低血糖のゾーンに入ったなら直ちに補給をして断食を止めなくてはなりません。同じように血糖値が300mg/dl以上になったら行動を起こさなくてはなりません。

また、尿の色が非日常的に濃くなれば脱水症状ですし、強い頭痛、吐き気、嘔吐なども断食をストップして通常の対応を取ることです。
宗教行事であろうが、私的なものであろうが糖尿病者の判断は常識に従うことが求められています。

プチ断食と血糖降下薬

  • 2型糖尿病者で生活習慣改善だけでコントロールしている人は、プチ断食のリスクは低いとされています。むしろ、深夜や早朝の食事による高血糖が心配されます。2型の血糖値は一度上がると容易には下がりませんので、食後のエクササイズなどで対応しましょう。
  • ビグアナイド薬(メトホルミン等)のみの人は低血糖のリスクは最小です。この薬はインスリン分泌を強めるのではなく、インスリン感受性を高めるためです。ラマダンでの勧めは2/3を夜食時に、1/3を早朝の食事に服用とされています。
  • チアゾリジン薬(アクトス)の単独使用は直接的に低血糖を引き起すとは考えられませんが、スルホニル尿素(SU)薬や速効型インスリン分泌促進薬、インスリンとの併用では血糖降下作用を強めることがあります。
  • スルホニル尿素(SU)薬はプチ断食には不適とされています。しかし、介護が必要な重度の低血糖はまれなので、ラマダンでは要注意であるが禁止されてはいません。
  • 速効型インスリン分泌促進薬(スターシス、ファスティック、グルファスト、シュアポスト)は作用時間が3時間と短いので、ラマダンでは有効とされています。
  • インクレチン関連薬としてのDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬は単独では低血糖を引き起こさないが、SU薬・速効型インスリン分泌薬、インスリンとの併用では低血糖降下を強めることがあります。
  • インスリン治療ではプチ断食はとても注意が必要です。空腹時血糖値をコントロールする基礎インスリンはトレシーバのように安定した効果を示すものが出来たのでプチ断食も楽になりました。ただ、インスリン治療はいろいろなパターンがありますので、担当医との相談が不可欠です。
意図したプチ断食だけでなく、大きな外科手術や内視鏡検査を受ける時も食事を断ちますから、糖尿病患者にとってその対応は決して他人事ではありません。機会をみて少しずつ挑戦してみましょう。
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