カメラの前で俳優は何者にでもなれます。
視聴者の熱量を高め、作品を多角体とし、鋭利な角度をつくる俳優の演技は、速効で完成されることもあれば、回を重ねるごとにジワジジワと醸成されることもあります。そんな個性的な俳優を探っていきましょう。
眼力自由自在 滝藤賢一
1976年生まれ 『俺のダンディズム』(テレビ東京系列 2014年4月~7月)に主演人間のギスギスした部分から生まれた歪んだ感情が加速していく過程を、毒々しく演じることができる俳優です。
自分で自分を追い込む破滅的な思考回路、空虚の中から生まれる負の火種、やがて体の中を逆流し始める悪意、濁色が濃くなるほど滝藤賢一は滝藤賢一らしさを露出させます。
恐怖と絶望、底抜け感とダメダメ感、人間の風変りな面を表現するポイントの一つが眼力です。眼をむき、血管が浮かび上がらせる。淀んだ瞳、渇ききった瞳、希望を見ようとしない瞳、眼力を自由自在に調整することで、心がかげる度合いを何段階にも演じ分けてしまう職人的俳優と言えるでしょう。
銀行という組織のなかで追いつめられる『半沢直樹』の近藤直弼が、視聴者を焦燥させ続けた記憶は新しいところですが、『ストロベリーナイト』でのシンメトリーに固執する屈折した犯人役から、『踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件』での愛されキャラ・中国からやって来た刑事 王明才まで、喜劇から悲劇まで 自分のものにしてしまいます。その圧倒的な眼力から、ますます目が離せません。
まとう風は自由自在 吉田剛太郎
1959年生まれ『MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜~』(TBS系列 2014年4月~)に出演
『花子とアン』では、不器用すぎる愛情に右往左往する炭鉱王・嘉納伝助を演じ女性のハートをつかみました。『半沢直樹』では上司 内藤寛を演じ、半沢の気持ちを汲みながら暴走しないよう毅然と声をかけていました。しかし『MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜~』では、自身の正気を破壊し、睡眠も休息も必要としない中上甚を演じました。その生々しい暴力に視聴者は騒然となりました。鳴らし続けるクラクション、巻かれたままのネジ、溶岩を素手で持ち凶器とするような、誰にも手をつけられない凶暴な男におののきながらも、次に何をするのか目を背けることはできませんでした。
善であれ悪であれ、メンタル的にもフィジカル的にもあそこまで演じきれるものではありません。熱風も爆風も朝風も夜風も、自在に風をまとうことができる55歳。さらに新しい境地を開き、私たちの想像をいとも簡単に超越していくことでしょう。