大手ハウスメーカー10社が力を入れる「スムストック」
国ではこのような状況を受けて、ストック住宅をより積極的に活用するべく、すでに法整備など取り組みを進めています。これまでの新築住宅重視の姿勢から、リフォーム市場、さらにストック住宅市場を活性化させるよう動きを強めているのです。この動きは住宅の「量から質への転換」ととらえられています。国がこのような姿勢を取るのには訳があります。それは、新築よりストックの方にお金をかける方がより効率的だから。空き家になっている建物を有効活用した方が、コストがかからないのは明らかだと思います。だから、現在の住宅政策はリフォームの方に重点が置かれています。
このように住宅政策は新築からストックへと重点が移りつつあるわけですが、とはいえ、それでも未だに数多く建設されています。新築住宅については、資産価値の維持についてどのような取り組みが行われているのでしょうか。
例えば、大手ハウスメーカー10社では「スムストック」という共通の仕組みとブランドを立ち上げ、ストック住宅流通の活性化に取り組みを始めています。その特徴は以下の通りです。
(1)住宅履歴 新築時の図面、これまでのリフォーム、メンテナンス情報などが管理・蓄積されている
(2)長期点検メンテナンスプログラム 建築後50年以上の長期点検制度・メンテナンスプログラムの対象になっている
(3)耐震性能 「新耐震基準」レベルの耐震性能がある
(4)独自の査定方式 一般不動産市場より建物の資産価値を評価する
この仕組みによる建物の査定価格(資産価値)は、建物の状態によりますが、築後25年ほどの場合で300~500万円程度になるそうです。仮に新築時に2000万円だったとすると、その価値は1/4程度になりますが、ゼロになるよりはましではないでしょうか。
住宅のコストを資産価値の視点から考えるとどうなる?
この仕組みの大前提にあるのが各ハウスメーカーの長期メンテナンスプログラム。それに準じることで、20~30年経過した後でも建物が健全な状態であることを確認できるというわけ。そして、だからこそ住宅のオーナーだけでなく、買い手にも安心感を与えられるというのがこの仕組みのキモなのです。もう一つが2009年にスタートした「長期優良住宅」の制度。これはハウスメーカーだけでなく、全ての住宅事業者が対象です。制度の狙いを簡単に説明すると、50~60年間のスパンで利用できる質の高い住宅を増やすことのほか、新築時から将来、ストック住宅として流通しやすくすることなどがあります。
この制度では、住宅取得支援のための補助金が出ますが、かなり耐久性など長く住み続けられるかについて強いしばりが発生します。この制度にしっかりと対応できているのかを確認することも、資産価値の観点から住まいを検討する際に重要となります。
ところで、最後に資産価値についてコストの面から考えてみたいと思います。住宅のコストにはイニシャルコスト(取得時の金額)、ランニングコスト(住み続けるための金額)、ライフサイクルコスト(建築時から解体時までの金額)という三つの見方があります。このうち、資産価値はライフサイクルコストと関連が強いと考えられます。
要するに、イニシャルコストで有利な住宅を取得しても、ランニングコストを含めたライフサイクルコストを考慮すれば、本当に有利なのか、ということをしっかりと考えてみるべきということです。住宅を売却する際、より高い金額になるのなら、それはライフサイクルコストとしてより皆さんにとって有利といえるのではないでしょうか。
例えば、前述したスムストックのような住宅価格の新たな仕組みを持つ住宅会社と、そうでない会社であれば、彼らが供給する住宅の価値は大きく違ってくる可能性があるわけです。このことから、住宅のコストが、イニシャルコストだけでは判断しづらい、複雑なものか理解いただけるのではないでしょうか。