自助食器をご存知ですか?
食べることは人間の3大欲求のひとつ。出来る限り、自分の力で食べられることがベストです
食べることは人間の3大欲求のひとつです。私たちは、当たり前のように複数の料理の中から自分で選んだものを口に運び、自分のペースで食事をしています。しかし、高齢者や障がい者のように身体機能に制約のある人の場合、箸を上手に使えない、スプーンを上手に持つことができない、片手で皿から一口分を取り分けることが出来ないなど、自分でやりたくてもできないことがたくさんあります。
そんなときに役に立つのが「自助食器」です。
いろいろな自助食器
自助食器にはいろいろなものがあります。お皿、スプーンだけでなく、箸もあります。上の写真を見てください。私が病院で入院患者様用に用意をしている自助食器です。これだけですべての患者様をカバーできるわけではありませんが、8割以上の患者様のお食事に対応できます。ひとつずつ説明しましょう。
一番右の食器。一見普通のお皿にも見えますが、裏を返してみると、すべり止めがついており、片手で食事をしても皿が動かないので、スプーン等ですくいやすいのです。さらに、片方は皿のように平たくなっており、こちら側からスプーンを伸ばし、反対側の内側に曲がった傾斜の部分に沿うようにして料理をすくうと、すべり出てしまうことなく、上手く上に乗ってくれます。
ポイントは、スプーンを前後に動かして料理をすくおうとする方や、斜めにスプーンを動かす方、左右に動かす方など、スプーンを移動させる向きが人それぞれなので、皿の向きを調整することです。向きを考えて適切に使わないと、「皿が動かない」という利点しか使えませんから、その利便性を活かしきれません。
一番左の2本のスプーンは、口の中に入れる部分が左右に曲がっています。これも、身体の動き方にあわせて使っていただくと、食べやすくなることがあります。口に入れる部分が左に曲がっているものを右手に持ち、口へ運ぶとさほど手首を大きく曲げなくても料理を口の中へ運ぶことができます。右マヒのある方には、口へ入れる部分が右に曲がっているスプーンを左手に持っていただけば、同じようにさほど手首を大きく曲げなくても料理を口へ運ぶことができます。
左から3本目のスプーンは、介護用の商品ではありませんが、口に入る部分が細くなっているため、口を開けるのが辛い患者様にお使いいただいています。持ち手の部分が長いので、食事介助をしても、介助者の手が患者様の目の前まで行かないので、使いやすいです。口を開けるのが辛い患者様は多く、取り合いになってしまい、急遽、買い増しをしたこともありました。
左から4本目のスプーンは、口へ入れる部分がシリコンで出来ています。本来はジャム等をすくうために開発されたようです。食事をお口へ入れて差し上げたタイミングで、スプーンを噛んでしまう患者様に使っていただいています。私の経験上、スプーンを噛んでしまう患者様にお食事をしていただいていたところ、噛みどころが悪かったのか、スプーンが口の中で割れてしまったことがありました。幸い怪我はありませんでしたが、これを機会に急いで買い増ししました。
さらに左から5番目のスプーンは、持ち手の部分が太くなることで使うことができるようになる患者様もいらっしゃるので、用意しています。私は持ち手の部分もプラスチックでできているものを用意していますが、市販のスプーンの持ち手の部分に被せる専用カバーのようなものもあります。また、手持ちのスプーンに文具店で売られているようなボールペン等のグリップを太くするカバーのようなものをつけても使えます。他にも、箸の一方がつながっているデザインのものであれば、箸でも食事ができるという場合もあります。
「自助食器」には高価なものもありますが、100円均一の店舗でも、重宝しそうな介護用品が並んでいることがあります。また、奥の手として、離乳食用の食器で介護用に使用しやすい商品がある場合もありますので、困ったときにはベビー用品売り場を探してみるのもよいと思います。
自助食器を使っても、手が止まってしまうなら……
「自助食器」を使って食べ始めたとしても、食事の途中で手が止まってしまうことがあります。お年寄りにとって、食事をすることは我々が思っている以上に重労働です。そのため途中で疲れてしまい、手が止まってしまうのです。そんな場合には、「お手伝いしましょうか?」とお声がけしましょう。「まだ食べられる」と食事を再開されれば、見守りを続ければ問題ありません。ただ、「まだ食べられる」と言われても手が止まったままであったり、黙って下を向いてしまった場合は、気恥ずかしさ等で頼めないでいる場合もあります。その場合には、再度「お手伝いしますよ」とお声がけし、食事介助をしてください。
「自助食器」と食事介助を組み合わせて、おいしく楽しい食事ができるよう、工夫していきましょう。