8位:伊福部昭 百年記 Vol.1:齊藤一郎(指揮)
ゴジラで知られる日本の偉大な作曲家の高揚感ハンパない映画音楽集
大:タイトルを見て「そんな作品もあるのか!!」って思いました(笑)。
北:クラシックのコンサートでたまに演奏される伊福部さんの『日本狂詩曲』などに代表される民族的な重い作品群以外で、観賞用と言っては変な言い方ですけれど、芸術性の高い作品がこんなにもあるんだ、ということに驚き紹介したところ、ネットを中心に相当売れました。
久:これはアガりましたね(笑)。非常にテンションが上がる(笑)。
大:伊福部さんの映画音楽の代表作『ゴジラ』も収録されていて興奮(笑)。今年はちょうどアメリカ版『ゴジラ』も公開ですし。
峯:次々に出たアルバムを聴くと、どれも印象が違うんですよね。いろいろな曲を書いていたんだなぁと。でも、作風は伊福部さんなんですけれど。
久:そうなんですよね。違うんですけれど、伊福部昭って分かるんですよね。
峯:最初の一音で分かる(笑)。
久:ワンパターンと言い切るのとも違うんですけれど。
北:リズム・パターンの特色とハーモニーの特色があるんでしょうね。
大:エッヂが立っていますよね。日本の作曲家の中で一番当てやすい人。
久:武満徹さんも分かりやすいかもしれないですけれど、本当に一音で分かりますよね(笑)。
北:(笑)。当初は作曲家として異端であったかもしれませんが、その後でいろいろな方に影響を与え、もちろん再評価は2回くらいされていますが、そういう中で今年は一つピークでしたね。ゴジラだけじゃないっていうところもありますし、色褪せてほしくないですね。
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8位:アントニーニ(指揮) ベートーヴェン:交響曲7番・8番
古楽界のパンクな指揮者により蘇生されたベートーヴェン!
峯:古楽のピリオド解釈を取り入れた折衷型のような演奏は最近の流れで、パーヴォ・ヤルヴィも似たようなやり方だと思うんですけれど、やっぱり全然違いますよね。
久:違いますね。パーヴォも好きですけれどね。それで、元々躍動的な7番はもちろん良いんですけれど、8番を聴いて、8番ってこんなにも良い曲だったのかと改めて思ったほどです(笑)。
大:僕も8番はびっくりしました。4楽章の激しいリズムなんて、AEDの心臓マッサージみたいな(笑)。ベートーヴェンを蘇生するようで強烈でした(笑)。
久:(笑)。ちょっと違うことをやっていても嫌味じゃないですよね。全てが音楽の流れの中にあって。
北:本当に良い意味で流れる音楽ですよね。滞留しないというか。
久:アントニーニは、イル・ジャルディーノ・アルモニコを率いたパッヘルベルのカノンを聴いたときにもびっくりしたんですよね。こう来るかと思って。テンポ的にはすごく速いけどキレイに流れる。
峯:彼らのヴィヴァルディ『四季』が出た時は本当に衝撃でしたよね。それまでに衝撃と言われていたビオンディの演奏が普通に思えちゃいましたよね。ブランデンブルク協奏曲の落書きのようなジャケット写真もインパクトがありました。
大:そうしたパンク精神は今も残っているというか。嫌なパンク精神ではないですよね。しかしアントニーニ、元気ですね。今49歳。
北:ベルリン・フィルでも演奏していますよね。
久:モダン楽器のオーケストラも多く指揮しているみたいですね。表現の方向性の一つとして、モダンオケにおけるピリオド解釈を盛り込んだ演奏が定着してきたな、という中でのインパクトある演奏ですよね。
峯:そして、今回改めて思ったのが、ベートーヴェンの音楽はどんな解釈・スタイルでも受け入れられる良い音楽だなぁ、ということですね。こういう演奏が出てくるとフルトヴェングラーなどによる重いかつての演奏が評価されなくなるかというと全然そんなわけでもなく、そちらも変わらず魅力がありますし。
久:本当ですね。ベートーヴェンってすごいなぁと思います。
峯:こうした引き締まった感じの演奏が今のトレンドですけれど、これから先、果たしてどういうカタチになっていくのでしょうか。時代は常に移り変わりますが、そんな中でも、ベートーヴェンをどう演奏するか、というのがいつの時代もメインの話題になるような気がしますね。
北:確かに。アントニーニはベートーヴェンの交響曲の録音は1番から順番に出していて、後は最後の9番が楽しみですね。
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6位:オボーリン(ピアノ) レフ・オボーリン 1963年2月東京録音
伝説的なロシアピアノの巨匠による、知られざる凄演
大:これは1963年に来日公演をした際に、NHKでセッション録音をしたものだそうですが、公演のプログラムが元になっているようですね。解説を見ると、コンサートは、バッハ、ラフマニノフ、ショパン、ハチャトゥリアンというプログラムと、ベートーヴェン、シューマン、ドビュッシーというプログラムだったようですね。ショスタコーヴィチもどこかで演奏されたよう。
北:本当に選曲がすごいですよね。レコードって、一人の作曲家の複数の曲が入っているというあり方が一般的じゃないですか。この盤は、バッハ、ベートーヴェン、ショパン、ラフマニノフ、ショスタコーヴィチ、ハチャトゥリアンと、いろいろな要素が入っていて驚きますね。ピアニストの考え方や、当時何が好まれていたかなどを含めて思想と国の意向、それがプログラムに色濃く出ていますね。
峯:今ピアノ・リサイタルというとベートーヴェンの30、31、32番だけとか、バッハだったら大曲のゴールドベルク変奏曲だけとかのことが多いですけれど、こういうプログラミングを今のピアニストもチャレンジしてほしいなと思いますよね。
久:今の人は調性の関係性を……みたいに理論的に組み立てるところがあるから、それだけではなく、もっと自分の芸術表現にこだわって活動するピアニストが出てきてほしいと思いますね。
北:ショスタコーヴィチの曲をいくつかを初演したそうですし、本当に彼なりのプログラミングですよね。ショスタコーヴィチを弾くなら、バッハがあるというのは呼応していて、意味がある。ショパンもマズルカを入れるというのが面白いですね。
峯:彼は第1回ショパン・コンクールの優勝者ですが、このマズルカの激しいこと(笑)。逆にベートーヴェンはとても静謐というか、ベートーヴェンっぽくないと言えば、ぽくなく、ロシアのピアニストが弾くベートーヴェンとは思えないですね。一方、ラフマニノフの力強さとショスタコーヴィチのなんとも言えないアイロニックな感じがロシアのピアニストでしか出せないような雰囲気ですよね。
大:流して聴いていても引き込まれる古風な美しさがある魅力的な演奏ですが、僕もラフマニノフやハチャトゥリアンで「やっぱりロシアのピアニストだな」って思いました。冷静さは保っているのですが、熱が上がっていくみたいな。
北:最後はロシアのピアニストだったんだなと分かる印象がつきますよね。
大:この時代らしい音も好きです。
峯:63年という録音年代の醸し出す音質ですよね。特に器楽は必ずしも新しい録音が良いとは言えないかもしれませんね。ピアノ演奏は時代時代の録音の音と、その演奏の雰囲気が合っていると感じられるものが多いですよね。これは正にそうした感じがあります。こういった何十年も経って出てくる記録で再評価されるというのはもっとあって良いかなと思いますよね。音楽鑑賞の幅を広げる一枚になると思います。
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6位:マゼール、メータ(指揮) 行進曲集
ビールのお供に! マゼール最後の録音
峯:マゼールやメータは普段やらないレパートリーですよね?
北:やらないでしょうね。
久:マゼールとメータが振っているなら聴いてみようってなりますけれど、どっちが振っているかはブックレットを見ないと判断つかない(笑)。
峯:最初の指示だけ出して後は遊んでいたりして(笑)。
北:演奏者も飲まないで吹いている人はいなかったりして(笑)。本当に楽しんで演奏されていますよね。演奏はとても上手いですよ。すごく。
久:中に写真がありますけれど、民族衣装を着て演奏していますね。ドイツでソーセージ屋さんに入ったらこういう人たちがいました(笑)。
北:本当に、この夏から秋にかけてビールを飲みながら聴くとぴったりですよね。全国の南ドイツ料理店に推薦して、お店でかけてほしいです(笑)。
大:主にどういった方たちが買っているのですか?
北:最初はブラスバンドファンなんですけれど、値段が安くないこともあり、40歳以上の大人ですね。有名な曲だと、タイケの『旧友』とか、スーザの『海を越える握手』が入っています。ですが、他は日本ではあまり馴染みがないドイツとチェコのマーチがほとんどなので売れないかなと思ったのですが、意外と売れていますね。
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