モーリス・ラヴェル『ダフニスとクロエ』
『ボレロ』で有名なラヴェルによる傑作の一つ。ギリシャ神話を巧みなオーケストレーションで美しく描いています。特に有名なのが第3部の朝の陽光が上がる「夜明け」(組曲版だと第2部)。鳥がさえずる中、目映い朝の最初の光を放つ太陽が、本当に目に見えるよう。初演:1912年、振付:フォーキン、指揮:モントゥー、衣装・舞台美術:バクスト
フランス音楽のスペシャリストとして知られたアンドレ・クリュイタンスによる指揮は今もって色褪せぬ、なめらかな美しさを堪能させてくれます。
エリック・サティ『パラード』
今のBGMの先駆けである『家具の音楽』を作るなど、時代の先を見続けた孤高の作曲家サティによる当作は、それまでのエキゾティシズムなバレエ・リュスから脱却した完全な前衛作で、これまたスキャンダルとなりました。ジャン・コクトーによる、ビルが歩くなどのナンセンスな台本と、ピカソによる動く明るいキュビズム的キッチュな衣装と舞台美術。そして、陽気で楽しいメロディーが次々と現れるも、その中にタイプライターやピストルといった具体音を盛り込んだ自由なサティの曲想と、全てがアヴァンギャルド。初演:1917年、振付:マシーン、指揮:アンセルメ、衣装・舞台美術: ピカソ、台本:コクトー
ルイ・オーリアコンブの演奏は、奇抜さを洒落たセンスで聴かせ、思わず微笑んでしまうようなチャーミングさです。
マヌエル・デ・ファリャ『三角帽子』
『パラード』でも振付とダンサーを担当したレオニード・マシーンによる、こちらも代表作。音楽はスペインの作曲家ファリャで、マシーンはこの曲のためにスペインに赴き、フラメンコをわずかの時間で習得したと言われます。音楽はどこを取ってもスペインで、色彩感、躍動感、それらはフラメンコの様子やマタドールの立ち居振る舞いを想起させる格好良さです。初演:1919年、振付:マシーン、指揮:アンセルメ、衣装・舞台美術:ピカソ
バレエ・リュスの指揮者でこの曲の初演者でもあるアンセルメは、スペインの大地の土埃をも感じさせるような活き活きとリアルな演奏で、当時の驚きをもって迎えられたであろう感動を今に伝えてくれます。
イーゴリ・ストラヴィンスキー『結婚』
最初期に活躍したストラヴィンスキーは、その後、新古典主義になったり生涯にスタイルを次々と変えましたが、1914年からスケッチを書き始めたため『春の祭典』に通じるプリミティビズム(原始主義)スタイルとなっているのがこの問題作。『春の祭典』も複雑なようで実は小さな単位の構成によってできていますが、この曲ではその傾向が更に強まり、かなりの部分がミ・レ・シという少ない音(の関係)を中心に作られています。『春の祭典』に負けず劣らず衝撃作ですが、あまり演奏されず有名にならないのは、合唱、ピアノ4台、打楽器という特異な編成に理由が。ゴンチャローワによるモノクロのシックな衣装と舞台美術に、ニジンスキーの妹のブロニスラヴァ・ニジンスカの振付で、優美な跳躍などは廃し、新婦の象徴(?)である長い長い編み込みの髪を皆が持って群舞を踊るなど一度観ると忘れられない独特な世界です。初演:1923年、振付:ニジンスカ、指揮:アンセルメ、衣装・舞台美術:ゴンチャローワ
この曲は当初自動ピアノでの演奏が構想されていたそうで、その精神に則ったのがモスクワを本拠とするポクロフスキー・アンサンブルによる演奏。なんとマッキントッシュの打ち込みに合唱を乗せています。これが全く遜色ないリアルな音で、かつどんなパッセージでもキリッと突き進むドライなところが、土俗的で濃厚な合唱と対称的でゾクゾクさせる名盤です。
人類史上でも突出した、豪華アーティストが才能をぶつけあった伝説のバレエ・リュス。コスチュームに音楽に、ぜひ味わってみてください。