問題を放置したまま人だけ減らされる
船に喩えてみる。企業の問題点はいわば船底に空いた穴だ。船底に穴が空き、海水が侵入してくればどんな大きな船でも沈んでいく。それを止めるには船底の穴を塞ぐしかない。ところが大部分の日本企業が行うリストラでは、空いた穴はそのままで、船を軽くすることばかりが行われる。すなわち船員の放出だ。乗っている船員が減れば船全体の重さが軽くなるという短絡的な発想だ。
船員を船から降ろせば一時的には船は軽くなるが、それは浮力が回復したのではなく、沈むスピードが遅くなっただけ。問題は何も解決していない。時間がたてば船はさらに沈み、さらに船員を降ろすという悪循環に陥る。
根本的な問題が放置されたまま、船員である「従業員」ばかりが船から降ろされるのが日本の誤ったリストラだ。
クビにされた社員が古巣に牙を剥く
それだけではない。誤ったリストラは日本社会にさらなる重大なダメージを与えている。リストラされた人材が外国のライバル会社に転職するケースが増えているからだ。とりわけエンジニアの場合は深刻だ。彼らは経験・技術・情報とともに外国企業に移籍し、悔しさのあまりこれまで以上に能力を発揮する。
その象徴が日韓の電器メーカーの立場の逆転だ。
日本が誇る技術集団だった某メーカーは、長年続けたリストラにより中心的なエンジニアが流出し、ヒット商品が生まれず慢性的な赤字に苦しんでいる。
一方韓国の某メーカーは、薄型、軽量、先進的なデザインを武器に世界最大の売り上げを誇る電器メーカーに成長した。その企業を支えているのは日本企業をリストラされたエンジニアであることは業界では周知の事実だ。
今回の記事ではその企業を批判するのが目的ではないので、いずれも固有名詞は記載しないが、両社がそれぞれ日韓のどの企業かはおよそ察しがつくだろう。
誤ったリストラを改めない限り、情報流出はもちろん、日本企業からの技術の流出もやまない。ベネッセの一件を教訓に、自社の誤ったリストラに気づく経営者が一人でも増えてくれることを願うばかりだ。