兵庫県立美術館 外観
「美術作品は視覚によって鑑賞することがほとんどです。視覚障がいのある方向けの展覧会を企画するとき、彫刻を触ること以外にどのような伝え方が良いかを考えました。そうしたとき、言葉による説明が大きな役割を果たすと思いました」。(担当学芸員の小林公さん)
そこで小林さんは、ネオ漫画で知られるアーティストの横山裕一さんのマンガ的な表現が向いていると思い、取り上げることにしました。
美術館内部の調整
内容や規模によって異なりますが、展覧会の準備には時間が掛かります。このプログラムで、学芸員の小林さんが横山裕一さんの展覧会をしようと決めたのは、昨年の秋。それから小林さんは、美術館のスタッフとの調整、年間予算や広報などの折衝などを重ねていきました。蓑豊館長をはじめとする幹部、各グループ担当者との打ち合わせのようす
アーティストへの打診
学芸員の小林さんは横山さんに連絡を取り、まずは横山さんに美術館へ来てもらうことにしました。展示室や作品を知ってもらったうえで、打ち合わせやメールのやりとりを通して、新しくつくってもらう出品作品の内容を固めていきました。兵庫県立美術館へ下見に来た横山裕一さん
キュレーションの力
こうしたことと同時に、キュレーターとして、小林さんは展覧会全体の内容や構成を考えていきます。「視覚障がいのない方でも、出品作品について100%理解できるかと言えば、そんなことはありえません。人それぞれに作品の理解の仕方や印象が違うこともあるでしょう。作品をつくったアーティストの意図と、鑑賞者は違う発見をする、なんてことだって起こり得ます」。
確かに展覧会に行っても、その場所に行くことで満足し、作品どんなのだったっけ?と思い出せなかったりします。それに、一緒に行った友達や恋人と「好きな作品」で意見が分かれたり、好きな理由も違ったりしますよね。
「こうした鑑賞体験の違いというのは、触覚による鑑賞においても起こり得ることです。この小企画『美術の中のかたち―手で見る造形』展は、毎回、ボランティアスタッフさんが視覚障がいのある方の鑑賞のお手伝いをします。ボランティアスタッフさんはこれまでもずっと、お客様の会場での移動のお手伝いだけでなく、作品の説明やおしゃべりの相手をしてくださっていました。それを私は、実はとても大きなことなんだと思い返して、今回の横山さんの展覧会に反映させました。美術館では普段NGとされている『おしゃべり』ですが、展覧会会場ではボランティアさんとお客様が『おしゃべり』ができます。自分の感想を人に話したり、別の人がどう思ったかを聞いたりしてみてくださいね」。