沈思黙考する人
取材中に古屋さんが何度か、かなり長いあいだ口をつぐんでいる時間がありました。「…いま無言になっているのは、考えているからなのですが…」と説明してくれましたが、その沈黙は、かつて大坊さんにインタビューさせていただいたときと実によく似た光景でした。
彼の人生観もまた興味深い。「古典などには詳しくないですが、友人が教えてくれた短歌がひとつだけあるんです」と、山上憶良の歌をひいた古屋さん。
世の中を 憂しと恥しと思えども
飛び立ちかねつ 鳥にしあらねば
「この世の中は生きづらい。生きていることが恥ずかしい。そう思うけれども、私たちは鳥ではなく人間なので飛び去って逃げてしまうことはできない。というような意味です。反論のしようがない短歌です。ちゃんと”人間”として生きていかなきゃなあと思うのです。大坊珈琲店を通して思ったことに、自分にとって『生活する』とは何なのかをしっかり考え続けなさい、ということもあるように感じます」
沈黙をはさんで、決して器用ではない言葉で答えてくださるその姿を、嬉しいと思いました。恵比寿のご近所さんたちにも早くも親しまれているらしく、取材時はお店の定休日だったのですが、何組ものおばさまやビジネスマンが半分の扉から入ってきては、定休日と告げられて「また来ます」と階段を下りていく姿を目にしました。
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