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恵比寿のCoffee Tram、名店の記憶と新しい魅力の誕生(2ページ目)

惜しまれつつ38年の歴史を閉じた大坊珈琲店で働いていた古屋達也さんが、魅力的なバーの昼間の時間を借りて、自身の珈琲店をスタート。古屋さんの珈琲について、また大坊珈琲店で学んだことについて、うかがったお話をお伝えします。

川口 葉子

執筆者:川口 葉子

カフェガイド

深煎りネルドリップの魅力

「お湯の1滴1滴のお湯がどういうふうに沁みこんでいくか。泡だちかた、つながりかた、膨らみかたなど、豆の感じを見つつ、次はどこにお湯を垂らせばいいのかと考えています」

「1滴1滴のお湯がどういうふうに沁みこんでいくか。泡だちかた、つながりかた、膨らみかたなど、豆の感じを見つつ、次はどこにお湯を垂らせばいいのかと考えています」

珈琲トラムのメニューはシンプルで、数種類の珈琲と自家製ケーキだけ。ブレンド珈琲は50円を追加すれば濃厚なデミタスで楽しむこともできます。ストレート珈琲なら注文時に希望を伝えれば、そのままの価格でデミタスに。もちろん、薄めに淹れていただくことも可能です。

「『濃くて飲みやすい』のが理想です」と古屋さん。
「『濃くて飲みにくい』ではいけないと大坊さんがおっしゃっていましたが、私もそう思います」

苦みとコクの中から優しく膨らんでいく甘みを楽しませる味作りの志向は、たしかに大坊珈琲店を踏襲。しかし、カップの中には新たな個性が顔をのぞかせています。
「大坊さんの味とはまた少し違うんですね」とカウンターの中の古屋さんに声をかけると、「自分としては、まず大坊さんの味にたどりつきたいと思っています」という言葉が返ってきました。

名店がたどりついた味わいにそうやすやすと手が届かないことは承知しながら、鼻と舌の記憶をもとに毎日の焙煎と抽出を積み上げていく。その先に、独自の魅力が花開いていくのだろうと思います。

新しい手廻し焙煎器を使って

小さな手廻しの焙煎器

「かつては、珈琲は礼儀作法を要求してくるような老紳士的な存在だと感じていましたが、自分で焙煎をするようになってからは、自分も珈琲も赤ん坊に戻ったような感覚に変わりました。二人して面倒をみあっているような…」と古屋さん。

カウンター奥に置かれている手廻しの焙煎器は大坊さんが使っていたものと同じかたちをしていますが、譲り受けたのではなく新品です。
「大坊さんは『ロースターも一から自分で焼いていくのがいいと思います』とおっしゃいました。私も『確かに』と思いました」

焙煎器と古屋さんとで、お互いを育てあいながら成長していくんですね。
「そうなっていきたいと思っています」

偶然にも初めて私が珈琲トラムを訪れた日に、自家焙煎珈琲店ねじまき雲の長沼慎吾さんも来店。この焙煎器をめぐる大坊さんと古屋さんのやりとりを、長沼さんはこんなふうに捉えていました。

「技術や道具を授けることが伝授にあらず。
伝えたのは、珈琲に焦がれる内側。
すなはち『自分の味は、自分の心は、一から煎り鍛えよ』と。
まさに大坊氏のいう珈琲店の在り様の神髄、『珈琲伝』の精神」
(長沼さん)

珈琲トラムの焙煎は、開店前の朝8時からスタート。大坊珈琲店では毎回、焙煎した豆を皆でテイスティングしていたそうです。
「大坊さんと味について話し合いを繰り返していたので、舌はだいぶ近くなっていると思います。お店では焙煎度を数字で表していて、それでいうと私の焙煎はいま『6.8』くらいに決めています」(おそらく、6.5~6.7くらいが一般的なフレンチロースト)

6.8で火を止めるタイミングは、どう判断するのですか?
「珈琲豆の色とつやを見て決めます。焙煎していくうちにだんだん豆の表面の皺がとれていくが、まだちょっとつやがない。さらに進むと、そこから、きらっと輝くようなつやが出てきます。豆の中から、ぷくっという感じで成分といいますか油分といいますか、それが出てくるあたりで止めます」

次ページで、古屋さんが修行時代に学んだことをお届けします。ネルドリップの技術はどのように習得したのでしょうか。

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