スイスで出会う高山植物
シーニゲプラッテに向かう登山電車。雲間に見えるのはユングフラウ三山
スイスのハイキングコースを歩くと、色とりどりの高山植物に出会う機会があります。特に6月から7月は花の種類も豊富で、花が好きな人にはたまりません。スイスアルプスの森林限界帯より上に生育する全植物は約900種類と言われ、同じエリアでも時期によって異なる種類の花が次々に現れ、消えていきます。
日本からの観光客やハイカーは、他の国と比べて高山植物に興味を示す人が多いようです。現地を案内するガイドがハイキングの途中で必ず聞かれるのが「この花の名前は何?」という質問。
ガイドにとって基本的な花の名前を覚えるのは必須とも言えますが、さすがに900種類もの草花の名前を覚えるのは限界があります。また、日本の高山植物の中には、「エゾ」、「ハクサン」など特定の地域で発達した固有種もあり、スイスで見る高山植物を日本名で照合するのは至難の業。
でもやはり「名前を確認しながら高山植物を鑑賞したい」という人には、スイス各地に点在する高山植物園がおすすめです。特にユングフラウ地方にあるシーニゲプラッテ高山植物園には、スイスに生息する約620種類もの高山植物が、自然を生かした環境の中で展示されています。
山頂の展望スポットにある高山植物園
シーニゲプラッテは、ユングフラウ地方の主要な展望台のひとつで、夏の観光シーズンは大勢の観光客やハイカーで賑わいます。インターラーケンから登山電車で次の駅、ヴィルダースヴィルで下車。赤い車体の可愛い別の登山電車に乗り換え、約50分で標高1967メートルのシーニゲプラッテ駅に到着です。シーニゲプラッテから見るアイガー、メンヒ、ユングフラウの三山が並ぶ景観も素晴らしく、ここを拠点に数々のハイキングコースも整備されています。そしてシーニゲプラッテの駅に隣接しているのが、高山植物園。ユングフラウ地方でぜひ足を伸ばしてみたいスポットです。運悪く山に霧がかかっている日でも、足元に咲いている花ならしっかり鑑賞できます。
植物群落ごとに栽培される高山植物
高山植物園は、例年6月から10月のオープン。花の見ごろは7月前半から8月前半までです。園内には全長あわせて700メートルほどの遊歩道が設けられており、アルプスの雄大な景観の中、ざっと1時間ほどでさまざまな種類の高山植物を鑑賞することができます。ここにはユングフラウ地方の高山植物だけではなく、他の地域に自生する種も植えつけられています。これは元々の自生地で採集された種を、高山植物園の庭師が高山帯の苗床で育成した後、園内に移して栽培したもの。600種類(年間での総数)を超える高山植物を見ることができるのも、このような地道な作業のおかげと言えるでしょう。
高山植物が育つ環境は土に栄養が少なく、強風や低温にさらされるなどとても過酷な条件です。そして岩場、牧草地、湿地など、さまざまな条件で固有の植物が花を咲かせます。シーニゲプラッテ高山植物園は、例えば「強風の吹く山の稜線」、「石灰質の岩場」、「窒素が豊富な土」など、植物群落ごとにできるだけ自然な形で栽培、維持、管理されています。
この高山植物園は、観光アトラクションとしての役割に加え、ベルン大学の植物科学研究所や同大学の植物園と共同研究を行っており、科学的研究や教育のための施設として高山植物に関する情報を公開しています。
日本の六甲高山植物園との姉妹提携
2008年6月、シーニゲプラッテ高山植物園は、兵庫県の六甲高山植物園と姉妹提携を結びました。六甲高山植物園は神戸市の六甲山の山頂近くにあり、園内には高山植物を中心に世界の寒冷地の植物など約1500種類が栽培されています。この提携を機に、観光、文化、教育など両植物園どうしの幅広い交流が始まっています。
レストランや山岳ホテルも
シーニゲプラッテにはレストランや山岳ホテルもあるので、ゆっくりランチを楽しんだり、宿泊したりすることも可能です。2014年の夏の間、お昼の時間帯にはレストラン付近でアルプスをバックにしたアルプホルン演奏もあり、無料で聞くことができます(悪天候時はレストラン内での演奏になります)。山岳ホテルはもともと1899年開業の伝統あるホテルですが、2011年に全面改修の上、オープンしました。最終の登山電車が出て観光客の姿が消える頃、静寂の中で夕焼けに赤く染まるアルプスを堪能できるのは、山岳ホテル宿泊者だけに許された特権です。