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医療・介護一括法がもたらす影響とは?

2014年6月18日、医療・介護一括法(地域医療・介護総合確保推進法)が国会で成立しました。社会保障についての予算が膨らみ続けるなかで、介護保険制度などを維持することを目的としたものですが、これからどのような影響が起きてくるのでしょうか。今回は、介護保険サービスの利用者側から見た主な変更点をご紹介します。

横井 孝治

執筆者:横井 孝治

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3年ごとに行われる、介護保険制度の改革

医療・介護一括法は、介護保険サービスの利用者にとって厳しい内容となっています

医療・介護一括法は、介護保険サービスの利用者にとって厳しい内容となっています

これまで介護保険の制度は3年に一度、大きな改革が行われてきました。

2012年4月の改革は、24時間サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護)や複合型サービスの創設を軸として、施設介護ではなく在宅介護を増やしていこうという方針に基づくものでした。

現在、2015年に向けて新たな改革の内容が急ピッチで具体化されつつあります。その大きなポイントとなるのが、2014年6月18日に国会で成立した医療・介護一括法(地域医療・介護総合確保推進法)です。この法律は、社会保障関連の予算が膨らみ続けるなかで、介護保険制度などを維持することを目的としたもの。利用者にとっては負担増などが盛り込まれた厳しい内容となっているのが特徴です。

今後は医療・介護一括法をもとに、詳細な改革案について国会で議論されていく予定ですが、2015年にどんな改革が行われようとしているのかを、介護保険サービスの利用者に関連するところを中心に見ていきましょう。


高額所得者の自己負担割合を2割に
(2015年8月~)

介護保険制度が始まって以来、分け隔てなく1割だった介護保険サービス利用料の自己負担割合が、所得によっては2割負担となります。

所得は世帯単位ではなく、個人ごとに判断することになっており、年金収入が280万円以上の人が2割負担の対象となる予定。これは在宅サービス利用者の約15%、特別養護老人ホーム(特養)入居者の約5%にあたるとのことです。

これに伴い、高額介護サービス費の制度についても、上限額を引き上げる方向で検討されるとのこと。年金収入280万円以上で、少しだけ介護保険サービスを利用するという人にとっては、従来の倍の利用料を支払うことになります。


要支援の訪問介護、通所介護を市町村事業に
(2015年4月から2018年3月にかけて順次)

これまで介護保険のサービスとして全国統一のルールで提供されてきた、要支援1~2の人向けの訪問介護(介護予防訪問介護)と、通所介護(介護予防通所介護)が、市町村事業に移管されます。

これらのサービスは、市町村ごとに内容や利用料を決めることになっており、ボランティア団体など介護保険の事業者以外にも委託できることになっています。

要支援1~2の人を対象としたサービスのなかでも、専門性が高いとされる訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションなどについては、従来通り介護保険のサービスとして提供される予定です。

市町村事業への移行は、2015年4月から2018年3月までの間に順次行われるとのこと。自分の住む地域でいつ移行されるのか、利用者それぞれがしっかりと確認していく必要がありそうです。

特別養護老人ホームの入所者を要介護3以上に制限
(2015年4月~)

これまで要介護1から申し込むことが可能だった特養(特別養護老人ホーム)について、2015年4月以降に新たに入居する人については原則として要介護3以上に制限されることになります。

それまでに入居済みの人で、要介護1~2の人については退去の必要はありません。また「認知症で常時見守りが必要」など、やむを得ない事情がある場合は、要介護1~2でも入所を認める方向で検討されることになっています。

今回の要介護3以上という入所制限は、2014年3月現在で52万人以上もいる特養待機者と比べ、受け皿となる特養の空室が絶対的に足りないことによるもの。しかし要介護3以上の特養待機者も34万人以上と多く、入居したい人がすぐに入居できるという状況にはなりそうもありません。


施設入所者の食費や部屋代の補助を縮小
(2015年8月~)

特養、老健(老人健康保健施設)、療養病床に入所している人たちのなかで、生活保護受給者や住民税非課税世帯といった所得の低い人については、食費や部屋代を補助する制度があるのですが、預貯金や家族の課税状況などによってこの補助が打ち切りとなります。

補助が打ち切りとなるのは、下記の条件のいずれかに当てはまる人です。

  • 単身の預貯金が1,000万円以上ある
  • 夫婦の預貯金の合計が2,000万円以上ある
  • 入所者が非課税でも、配偶者は住民税の課税対象となっている
  • 非課税扱いの遺族年金や障害年金を課税扱いの収入と仮定した場合、住民税の課税対象となる

65歳以上の介護保険料を6段階から9段階に変更
(2015年4月~)

月々支払う介護保険料は、市町村ごとに基準額を定めたうえで、所得の多い少ないに合わせて増減されることになっています。

現在、65歳以上の人の介護保険料についての所得区分は、大半の市町村で6段階となっており、月々の基準額を5,000円とした場合の介護保険料は下記の通りです。

【現状の介護保険料の例(基準額を5,000円とした場合)】

  • 第1段階(老齢福祉年金受給者で、世帯全員が市区町村民税非課税、または生活保護の受給者)……増減率:-50%、介護保険料:2,500円
  • 第2段階(世帯全員が市区町村民税非課税で、本人の課税年金収入額と合計所得金額の合計が80万円以下の人)……増減率:-50%、介護保険料:2,500円
  • 第3段階(世帯全員が市区町村民税非課税で、第2段階に該当しない人)……増減率:-25%、介護保険料:3,750円
  • 第4段階(本人が市区町村民税非課税だが、世帯に市区町村民税課税者がいる人)……増減率:0%(基準額)、介護保険料:5,000円
  • 第5段階(本人が市区町村民税課税者で、前年の合計所得金額が200万円未満の人)……増減率:+25%、介護保険料:6,250円
  • 第6段階(本人が市区町村民税課税者で、前年の合計所得金額が200万円以上の人)……増減率:+50%、介護保険料:7,500円
     
2015年4月からは、この所得区分が9段階へと細分化され、低所得者はより負担が軽減される一方、所得の多い人は負担増となります。

【2015年4月からの介護保険料の例(基準額を5,000円とした場合)】
  • 第1段階(従来の第1段階または第2段階に該当する人)……増減率:-70%、介護保険料:1,500円
  • 第2段階(従来の第3段階に該当する人のなかで所得が低い人)……増減率:-50%、介護保険料:2,500円
  • 第3段階(従来の第3段階に該当する人のなかで所得が多い人)……増減率:-30%、介護保険料:3,500円
  • 第4段階(従来の第4段階に該当する人のなかで所得が低い人)……増減率:-10%、介護保険料:4,500円
  • 第5段階(従来の第4段階に該当する人のなかで所得が多い人)……増減率:+0%(基準額)、介護保険料:5,000円
  • 第6段階(従来の第5段階に該当する人のなかで所得が低い人)……増減率:+20%、介護保険料:6,000円
  • 第7段階(従来の第5段階に該当する人のなかで所得が多い人)……増減率:+30%、介護保険料:6,500円
  • 第8段階(従来の第6段階に該当する人のなかで所得が低い人)……増減率:+50%、介護保険料:7,500円
  • 第9段階(従来の第6段階に該当する人のなかで所得が多い人)……増減率:+70%、介護保険料:8,500円

所得区分の詳細については、これから検討が進んでいくことになります。
 

「社会保障の強化」に、もっと消費税増税分の充当を!

今回の改革案は、利用者にとって非常に厳しい内容となっていることがおわかりいただけたでしょうか?

なかでも要支援の訪問介護、通所介護を市町村事業に移管するというのは、サービス内容の大幅な低下に繋がる恐れがありますし、特養の入所者制限については「これ以上、特養を作りたくない」という厚生労働省からのメッセージに思えて仕方ありません。

「社会保障の強化」を目的として消費税が増税されたにもかかわらず、5兆円とされる増収分のうち、医療や介護の充実にあてられた予算は5,000億円しかないという報道もあります。来年10月に消費税が10%に引き上げられる際は、その増収分の多くを医療や介護の充実に使ってほしいと強く願います。


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