抽出時にはゆっくりと圧力をかけて
エアロプレス大会の競技ルールは極めてシンプルで、規定の豆を用いてエアロプレスで抽出したコーヒーを、3名のジャッジがブラインドテイスティング。最もおいしい一杯を作り上げた人間が優勝者となります。
鈴木さんと佐々木さんは大会に照準を合わせ、2人でテストを重ねながら独自のメソッドを編み出していきました。それは緻密な分析と、常識にとらわれない自由な発想の融合。
「ジャッジがテイスティングを開始するのはコーヒーを提供してから5分後。それに合わせて、5分後のテイストがベストになるよう抽出しました」と鈴木さん。
「審査ではマイナス点を取られるので、いかに悪いフレーバーやテイストを出さずに、きれいな味を表現できるかが重要。自分たちのレシピは挽き目を粗くして、通常よりもかなり低温のお湯を使い、蒸らし時間を長くとっています」
「力で一気に押し下げるのではなく、雑味が出ないようにゆっくりとプレスをかけて」と説明しながら、佐々木さんは45~60秒という長い時間をかけて、一見、動いているのがわからないほど静かにブランジャーを押していきます。
「イメージしているのはバランスの整ったクリーンな味」
今大会で使用されたコーヒー豆はブラジルですが、「難しい豆。個性を出しにくく、単調になりがち」と鈴木さんは捉えました。そこからきれいな酸味や甘みをどう引きだして表現するかが、バリスタの技術の問われるところ。
「佐々木くんが作ったコーヒーはアフターテイストにオレンジのような酸味が出ていた」
私が何よりも驚かされたのは、綿密に練り上げて用意していたにもかかわらず、そのレシピを競技直前に変更していること。競技で使用する豆を渡されるのは大会の1か月前なので、本番では豆の条件が微妙に変わってきます。
「競技前の練習時間に飲んでみて、本番では予定していたレシピよりもお湯の温度を上げ、蒸らし時間を変えて、フレーバーが出るようにした」と佐々木さん。
「湯温を上げると雑味も増す可能性があるので心配だったが、許容範囲でした」
鈴木さんも「前日にひらめいた」と、エスプレッソマシン用ポルターフィルターを取り入れ、シャワーのようにお湯を注ぐことで圧を一定にというするというマニアックなアレンジで国内外の注目を集めました。
自分に引き出しがどれだけ蓄積されているか
「豆に応じてその場で臨機応変に判断するには、引き出しの多さが問われる」と佐々木さんは語ります。こんな条件の場合はどうすれば自分が理想とする味に近づけられるか、日々の実験の積み重ねを整理し、頭の中に正確にストックしておくこと。その成果が今回の世界大会優勝をもたらしたのです。次ページでポール バセットのバリスタ・トレーニングの基礎をご紹介しましょう。