アジア経済が曲がり角に
アジア株式が時代の曲がり角に来ています。中国の不動産バブル崩壊の懸念や韓国の社会不安、そしてインドネシアやタイなどで政治的混乱など。これまで世界を牽引して来たアジア株式の勢いに陰りが見えます。そんな中で、元気なのはフィリピンです。ASEANの雄、フィリピンは元気です
フィリピンはASEANの中で最も高い経済成長を遂げています。2013年は台風被害がありながらも7.2%でした。2014年は、6.5~7.5%の成長が見込まれています。この5年間で株価は2.6倍以上に急騰しました(フィリピン総合指数)。フィッチ、S&P、ムーディーズなどの信用格付け機関も2014年になってから、フィリピンを”投資適格”に格上げしています。フィリピンの経済の中心は農業。鉱物資源も豊富です。工業に関しては、食品加工、製糖、製剤、繊維などの軽工業が中心ですが、近年は電子製品の製造が成長分野です。
今後は、国内需要による経済の伸びが期待されます。一般消費財やサービス業、建設業、金融業などです。人口の増え続けるフィリッピンでは、すでに人口が一億人を超えています。年齢構成が整っているので、2040年 には1億4000万人程度 まで増加すると言われています。アジアでも、中国、インド、インドネシア、日本に次ぐ大国になっており、1億超のフィリピン国民が購買力を持った消費者となれば、内需の拡大によって経済をさらに成長させることは確実です。
フィリピン経済を支えるBPO
それから、フィリピン経済でユニークなのが、BPOと海外出稼ぎ労働者からの送金です。前者のBPOとは、ビジネスプロセスアウトソーシング。英語圏の先進国から業務の一部を委託される事業のことですが、具体的には、コールセンター、トランスクリプション、ソフトウェアやコンテンツの開発などがあります。以前はインドでのBPOが注目されていましたが、2010年にはインドを抜いてフィリピンが世界第1位のシェアを持つに至りました。BPO成長は右肩上がりで、売上げはGDPの10%にも達する見込み。それを支えているのはフィリピン人の特性です。フィリピン人はきれいな英語を話し、識字率も高いのです。そのうえホスピタリティがあることからコールセンター業務などに向いています。安価で英語力がある豊富な労働力がフィリピンの成長を支えています。
出稼ぎ労働者からの送金も縁の下の力持ち
もう一つの特徴は、海外のフィリピン人からの送金です。公的統計では年間に214億ドルといわれますが、現金で入って来るものを含めると倍はあると見られており、すると国家予算に匹敵する400億ドル(4兆円)相当となります。具体的には米国やカナダに出稼ぎに出たフィリピン人が、医師、看護師、エンジニア、船員などの職業につき、フィリピンに残る家族に生活費を送金しているのです。労働市場が閉鎖的な日本では、飲食店の店員ばかりを想像してしまいますが、北米にはかなりの高給取りのフィリピン人がいます。フィリピンでは、全労働人口の4分の1が海外で働いているというからすごい国です。
問題は、国内で稼げる職業が足りないということでしょう。雇用の拡大を阻んでいるのは、固定的な階級社会や財閥の存在、そして社会インフラの未整備です。フィリッピンの陰の部分も見ておきましょう。
フィリピン、陰の部分
・貧富の差が激しい力強い内需に支えられて企業が成長し、富裕層が生まれる一方で、1日2ドル未満で暮らす貧困層が40%もいるというのですから、まだ貧しい国です。昨年の台風報道で放映された、民家のトタン屋根がフィリピンの現状を象徴しています。経済成長は6~7%でも、インフレ率も高い(3~4%)ので、海外から投資する人はともかく、国内で暮らす人には貧困からの脱出は容易ではありません。
・財閥の存在
植民地時代・独裁時代に一部の特権階層が経済を独占してきた影響が残っており、財閥による寡占状態にあります。寡占は自由な成長を阻害し、貧富の差を拡大させます。ビールのサン・ミゲル(ソリアノ家)、不動産開発のアヤラ、砂糖のアラネタ、不動産開発のオルティガス、バナナプランテーションのツアソンなどの財閥が有名です。財閥健在の背景には国民の側にも財閥を必要とする依存体質があります。元来穏やかで人のいいフィリピン民族は、腐敗や癒着、不正を糾弾することよりも、食っていくために必要悪ともうまく付き合うといった鷹揚さに流されることが改革の仇でもあります。
・社会インフラの未整備
昨年の台風今報道でも分かったように、道路・鉄道・エネルギーなどの社会資本が未発達です。普段から交通渋滞が経済活動を阻害していると言われてきました。
将来的には、これらの根本的問題が解決していけば、フィリピンはもっと飛躍的に発展していく国だと思われます。これから10年間のフィリピン株に期待しています。