不妊鍼灸について
想いがよろこびに変わる時
現在鍼灸は様々な医療分野で活躍しており、2010年に伝統鍼灸はUNESCOの無形文化遺産に登録されました。このように近年の鍼灸の世界評価の上昇に伴って、今後鍼灸の臨床活用がさらに増大することが予測されています。特に最近では西洋医学でなかなか改善の見込めない疾病について、鍼灸の有効性が示されるなど、鍼灸への期待は益々高まっています(鍼灸の有効性についてはこちらのコラムを参考にしてください)。
不妊鍼灸もその流れを受けた鍼灸医療の新しい分野の一つです。ここ数年の不妊治療患者のニーズにこたえるべく、不妊専門鍼灸院も急激に増えています。
しかし、多くの方はどの鍼灸院へ通えばよいか、正直なところわからないのではないでしょうか?だれでもベストな治療はもちろん受けたいでしょうし、名医と言われる人に最高の治療をしてほしいに違いありません。しかしながら、そのような鍼灸院をどうやって見つけるのかはだれも教えてくれません。また、身近な人で鍼灸を活用している方もそう多くはないと思います。このコラムでは、自分にあった不妊治療のできる鍼灸院をどうやって選ぶのか、について書きたいと思います。
どの鍼灸院へ通えばよい?不妊専門でなくてはダメ?
■不妊専門ではない鍼灸院へ通院するときに注意したいことどこにでもある一般的な鍼灸院はけっこうオールラウンドで、ありとあらゆる症状について治療できるところが多いです。腰痛をはじめとする痛み疾患から頭痛、めまい、耳鳴りなどの不定愁訴まで幅広い範囲で治療が可能です。ただし、不妊治療、特に体外受精や顕微授精については鍼灸師がそれについての専門知識を自分で勉強しないと、患者様がどのような治療を受けていて、どのような薬を飲んでいるか理解できません。
残念ながらいつも行っている鍼灸院で肩こりなどは治してもらっているけど、不妊治療について詳しくないので……このような悩みをもって、当院へ転院されてくる患者様は少なくありません。自分の受けている治療の話をしても話が通じない、自分がどのようなつらい治療をしているのか、理解されていないのではないかといった不安を抱えています。
不妊治療専門の鍼灸院でなくとも、不妊治療(高度生殖医療)について、しっかり勉強されていて、患者の方からの質問にしっかりと、言葉を濁さないで答えられるということが大切です。たとえば、卵の質を良くしたいといった問題に対して、納得の行く回答が得られるかどうか。「はい、鍼灸治療で良くできますよ」と答えるだけではなく、なぜそうなるのか、それにはどのようなアプローチを取るのか、といった治療前の説明が大切になります。
不妊鍼灸を専門分野の一つとしているのであれば、不妊治療中にどのような薬を使い、どのような検査法、刺激法があるのか、熟知していなければなりません。ですから例えば今日は生理3日目ですと鍼灸師に伝えたら、その時に病院で通常行う血液検査、その数値が何を表すのかなど知っていなければなりません。
不妊治療に精通している鍼灸院であれば、不妊が専門でなくても安心して治療を受けられて良いのではないでしょうか。
■不妊専門の鍼灸院へ通院するとき注意したいこと
ここ数年、全国の方々からメールで、「現在自分が受けている鍼灸治療」について、メールでお問い合わせいただく事がしばしばあります。「果たしてこのような治療が正しいのか?」といった不安がほとんどです。近年不妊専門を看板に掲げる鍼灸院は雨後の竹の子のごとく増え日本各地で乱立状態となっています。生殖医療の学会へ参加したり、専門の学術雑誌などをよく勉強し、地道にこつこつと治療を行う所もあれば、宣伝ばかりで、商業主義に走っている鍼灸院など様々です。
そこで、まず不妊鍼灸専門へ通院する場合に見極めたいのは、不妊以外の部分について、しっかりと対応できるかということです。本来不妊は病気ではありませんし、妊娠できない理由は本当に様々です。本当に様々であるから、むしろオールラウンドの鍼灸院と同じように様々な症状や不定愁訴に対しても、しっかりと対応できる技術やノウハウが必要となってきます。
たとえば、ウェブサイトでホルモンのバランスを整えて妊娠しやすいカラダづくりをしましょう、と書いてあるのであれば、自律神経の調整も得意としているはずです。そうであれば、めまい、耳鳴り、頭痛、生理不順、生理痛、うつなど自律神経が関わっている症状についてもしっかりと対応できるはずです。また、ホルモンバランスがシフトする高温期、低温期での不調にも対応できうるはずです。
「当院は不妊治療専門なので不妊以外については治療できません。」このような鍼灸院は絶対に避けるべきではないでしょうか。
鍼灸とは本来「全人医療」と呼ばれ、人のカラダをパーツパーツに分類して診るのではなく、その「人」を診ることに重きを置いているはずです。ですから不妊で悩んでいる人に耳鳴りや腰痛があれば、その症状についても良くなってもらうのは大切だと私は考えます。真の健康を手に入れてこそ、妊娠しやすいカラダに近づいているのではないでしょうか。ですから不妊専門鍼灸院へ通院するのであれば、あなたの不妊以外の悩みにもできる限り対応しようといった、姿勢が欠かせません。
信頼できる不妊鍼灸院を選ぶには
不妊治療を受ける患者の方が口を合わせて言われることは、不妊治療は「つらい」ということです。顕微授精や体外受精といった高度生殖医療から人工授精やタイミングを合わせるといった一般的な治療など、さまざまですが、どんな治療であれ不妊治療はやはり「つらい」のです。特に治療が長引けば長引くほど、つらさに乗じて体のさまざまな不調も増えてゆきます。鍼灸の大きなメリットは「つらく」なりがちな不妊治療を、少しでも楽にすることが可能なところ。カラダとココロが訴えるさまざまな不定愁訴(肩こり・腰痛・耳鳴り・生理痛・ストレスなど)にもしっかりと対応しつつ、より健康になって妊娠力をアップし、妊娠のための準備ができることが不妊鍼灸の大きな特徴です。
ですから選ぶポイントとしては、まずそのような治療が可能かどうかを知ることです。
鍼灸治療の本質はココロもカラダもしっかりと診る「心身一如」という考えかたです。そんな考えを持っている鍼灸院を探してください。
不妊鍼灸を受ける際、ここは注意しておきたい5つのポイント
- その鍼灸院が混雑しているから良いとは限りません
広告、宣伝などでいくらでも人を集めることはできます。どれだけ混んでいるかを基準にして選ばないでください。
- 治療費が他の院より高いから良いとは限りません
また、最近ではいろいろな機材を導入し、その機材を使用する場合はオプションとして別料金が発生するところもあります。治療費がその地域の鍼灸院と比較して、5割以上高い場合は注意が必要です。また、効果的な治療を受けようとすると、それによって治療費が左右されるようなところは気を付けましょう。本来毎回ベストな治療を提供するべきだと私は考えています。お金をより多く払うともっと良い治療が受けられるという理屈は鍼灸では通用しません。
- 根拠に基づいた治療間隔(週に2回ないし週に1回)を越える不必要な通院を勧めるところ
通常は週に1回から2回の頻度で十分です。
- 女性の肌の露出をあまり気にしない鍼灸院
私の院では、肌の露出は最低限に抑え、特に配慮しています。もちろん陰部や乳房を触ったりするような治療はありません。
- 医療費控除に利用できる領収証を毎回発行していることも大事
領収書は医療費控除の対象となります。請求しなくても毎回領収書を発行していることが望ましいです。
患者の方が安心して治療を受けられる仕組み作り
生殖医療専門医有志で、日本の生殖医療の質を向上させ、患者の方に安心して満足できる生殖補助医療を受けていただく事を目的としてJISART(日本生殖補助医療標準化機関)という団体が数年前に結成されました。鍼灸でも患者の方に安心して満足できる不妊鍼灸を受けていただくことを目的としてJISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)が2017年に発足しています。不妊鍼灸は通常の一般的鍼灸に加え、生殖医療に関わる非常に高いレベルの治療技術が求められます。JISRAM独自の厳しい審査基準・倫理委員や認定制度を設けることにより、各鍼灸院が高い不妊鍼灸技術を維持するとともに、会員同士がお互いに切磋琢磨することにより、より良い不妊鍼灸を患者の方々に提供できるよう、日々努力しています。