爽快で美しさに満ちたシューマンの交響曲全集
そして、彼とドイツ・カンマーフィルが次に挑戦したのが、「トロイメライ」など詩情あふれる作品で知られるシューマンの交響曲全集(全4曲)。最後の4番が今年に入り発売され、完結しました。ベートーヴェンよりも後の時代のロマン派を代表する作曲家であり、文学や詩を愛したシューマンらしく、情感に富んだメロディーが多数登場しますが、パーヴォは、小編成オーケストラならではの機動力を最大限に活かし、フレキシブルに強弱のメリハリを大きくつけ表情を豊かにするものの、メロディーはあくまで自然な運びの中で歌わせるといった感じで、やりすぎて野暮ったくなることがないのがさすが!
繊細で後に精神を病んでしまうシューマンのわずかな心の機微も表象させるような、全音符に神経を集中させた見事な演奏。そう、各楽器の和音のバランスの良さなど、アンサンブルの完璧さだけでも聴いていて唸らされます。
どれも心地よい美しさに満ちていますが、最初にオススメするのは、交響曲第3番『ライン』。シューマンがライン川のイメージを持って書いたということで後にタイトルが付けられた人気曲です。1楽章や2楽章で聴ける、よどみなく、爽快に進む流れの美しさ。まるで温かな日差しを受けてキラキラとライン川の河面が光って見えるよう。シューマンの求めた理想の穏やかな世界がそこにあるようです。が、一転して、4楽章では深淵な世界が(ケルンの大聖堂での儀式がイメージにあり作曲されたと言われています)。ただ心地良いだけではなく、こうした深さがあるところがパーヴォ自体の音楽の深みであり、風格を感じさせます。第1番『春』の引き締まった演奏も収録されています。
第2番はシューマンの交響曲の中では地味な印象かもしれませんが、ここではみずみずしく新鮮に響き、曲の印象が変わるのではないでしょうか。速い2楽章の一糸乱れぬ演奏なども見事。他の曲もそうですが、引き締まった美しい造形感のせいか、ふと、ベートーヴェンの曲を聴いているかのように思う時があります。
最新の第4番は最もロマン主義的な感銘を受ける曲ですが、終楽章冒頭の音が徐々に上がっていく感動的な場面でも、感情を全開させるのではなく、グッと抑えてそれでも漏れ出る作品本来の情感を聴かせるところに、舌を巻きます。
また、このアルバムは「序曲、スケルツォとフィナーレ」と「4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュトゥック」という2つのあまり演奏機会の少ない曲も収められていますが、前者は最初の巧みなクレッシェンドから一気に引き込まれ、また後者は、ホルンにベルリン・フィル首席シュテファン・ドール、ドイツ・カンマーフィル首席のヘッケルマン、ボン・ベートーヴェン管のグレーヴェル、フランクフルト放送響首席のゾンネンが参加という、豪華すぎる強者揃いの美演に惚れ惚れします。必聴です!
パーヴォ・ヤルヴィがN響の指揮者に!
彼らは、2014年12月に来日し、ブラームスの交響曲を演奏予定! こちらも期待ですが、さらにすごいことに、このパーヴォ・ヤルヴィは、なんと、2015年9月からNHK交響楽団の首席指揮者に就任予定! 日本で度々聴けるようになるなんて、今から本当に楽しみですね(2015年2月のN響定期演奏会にも登場予定です)。※NHK交響楽団首席指揮者就任後インタビューはこちら
・パーヴォ・ヤルヴィ、NHK交響楽団首席指揮者、就任インタビュー