実は「ジャンルの違い」はない?!
「アート(美術)とクラフト(工芸)の違いは?」「実用的かそうでないか、です」というのは、過去の話です。「白白庵」アートディレクターの石橋圭吾さんに、ジャンルについてお話を伺います。
お茶碗のように「目的があるもの」をクラフト(工芸)、「●●のようなものを表現している」と想像力をかき立てられるものをアート(美術)、と考えられています。
しかし石橋さんの解釈は、必ずしもそのようなものではないようです。
「古来より大陸・朝鮮半島やポリネシア、時代を経て欧米列強からの人や物の影響を絶えず受けながら、それらを自分達の住む地域の気候風土・文化風習に取り込みつつ発展してきた日本文化は『ハイブリッド』です。昔から『日本人』には優れた美的感性と編集能力が備わっていたのでしょう、かつての『日本人』は日本家屋の中で襖絵や掛軸に意匠を凝らし、亭主が客人をもてなす際には花を生け、茶を供し、香を焚いたりしたものですが、それらは全て生活様式の中に有るものでした。今のように『美術』『工芸』の区別もはっきりしない時代が長く続いていたのです。」。
つくり手が執念を燃やす「抹茶碗」
そういった石橋さんの考えのもと、「抹茶碗」を見ていきましょう。これはどういうお茶碗ですか?
「津田友子(京都)作、『赤樂茶碗』です。」
ただ「抹茶を飲む」というものではないのですね。
「一般の陶芸家の飯碗が3000円~4000円程度だとしたら、抹茶碗は10倍くらいの値段です。なぜそんなに高いかというと、抹茶碗は茶の湯の道具の中でも主役であり、供する側にとって客人にどんな抹茶碗を出すかは、人間に対する洞察力と美的感性を賭けた真剣勝負だと言う側面があるからです。当然、茶碗の作り手も一つの碗に対しての入れ込みようが日用の器とは違います」。
一方で茶の湯の世界で最上級とされている抹茶碗は、古来・朝鮮半島から伝わったとされる雑器(ざっき / 日用の品)。名も知れぬ工人がお茶とは全く別の用途で作った碗とされ、それが日本に渡り高名な茶人の手によって見出されたのですが、結果として国宝になっています。