無音で走ること以外、違和感なくドライブできる
ドライブフィールは、i3と同様に、極めてフラット、かつ水面を滑るミズスマシのような感覚である。端的に言って、硬い部類。けれども、ボディもまたものすごく硬く仕上がっているため、設計的に制約のあるサスペンションでも、その役目を存分に果たすことができているから、意外に快適だ。よけいな振動もなく、収まりもいいから、多少荒れた路面でも気分が悪くなるような突き上げはない。街中を流していて気づいたのは、プロトタイプ時に比べて、前後パワートレインの制御が極めてスムースになっていること、すなわちスムースに加速することと、ブレーキの制動フィールがまったくフツウの感覚、i3のようにアクセルオフで停まるようなことがないということだ。要するに、無音で走ること以外、違和感なくドライブできる。室内は、当然、かなりの静けさで、風切り音もなく、聞こえてくるのはタイヤのパターンノイズだけ、だ。
ちなみに、高速スタビリティの高さも秀逸。知り合いのBMWマンが、雨の中、アウトバーンを200km/h以上で巡航しても、まるで怖くなかったと言っていたが、ありえる話である。
かの有名なマルホランドドライブでスポーツモードを試してみた。攻め込んでみて最初に感心したのが、クルマの軽さと重心高の低さである。すべての操作フィールががっちりと引き締まり、クルマがひと回りも小さくなったようにさえ思えた。その効果は絶大で、ひるむことなく、安心して攻め込んでいける。もっとも、左右の動きがあまりにシャープなため、助手席のカノジョはすぐにクルマ酔いしてしまうかも……。
気になるエンジンフィールはどうか。これが、とても直3とは思えないほどにスムースで、シルキー6をちょっぴり思い出させる。極めつけはサウンド。加速の爆発音が豪快で、さらにシフトダウン時にはド派手なブリップ音も響かせる。
間違っても、トンネルのなかで窓を開けて音を聞こうなどと思わないで欲しい。窓を開けてしまうと、途端に音がしょぼくなってしまう。BMWが培ったレゾナンスシステムの経験をフルに活用したi8は、密閉状態でエンジンサウンドを意図的に心地よく響かせる工夫をしているのだ。
i8は、全く新しいスポーツカーである。乗っているあいだ中、新しさを経験し、楽しんでいられる。けれども、ひとたびクルマを停めれば、汗ひとつかくことなく、さっとデへドラルドアを開ける自分がいた。