V2HでEVの蓄電池を住宅に活用できる時代に
地球温暖化ガスを排出しないクリーンなクルマの一つとして、今後さらに普及すると目されている電気自動車(EV)。そのEVに搭載されている蓄電池を住宅の蓄電池として役立てる、V2H(Vehicle to Home)というシステムがあります。これについても、将来的に普及が進むと考えられます。そこで、この記事ではそのシステムの特徴についてはもちろん、今後の普及に向けた背景、課題などについてご紹介します。保有台数が大きく増加した電気自動車
まず、EVについて改めて確認しておきましょう。一般社団法人・次世代自動車振興センターのホームページによると、わが国におけるEVの保有台数(乗用車、軽自動車などを含む)は2016年度に約8.8万台となっており、2011年度に比べ約4倍に増えています。次世代自動車にはEVのほか、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、水素をエネルギー源とする燃料電池車(FCV)などもあり、将来的に何が主流になるのか、様々な見解があるようですが、この数字はEVが次世代自動車の主流の一つになりつつあることを表しています。
最近はEVの充電設備が様々な場所に設置されるようになるなど、より一層の普及へ向けた環境整備が行われています。例えば、新設、あるいはリニューアルされた総合住宅展示場の駐車場に、充電設備が設けられているケースもあるくらいです。
V2HはこのようなEVの普及が前提となっているのですが、さらに大前提となることがあります。それはEVに搭載されている蓄電池が、家庭用に比べて大変大きな蓄電容量であることです。
あくまでおおざっぱなイメージですが、家庭用蓄電池の蓄電容量が仮に5kwhとすると(これでも容量は大きい方です)、EVのそれは10~40kwhと2~4倍程度あります。そこに大きな可能性があるわけです。
次に、V2Hのシステムを簡単に説明しておきます。住宅(太陽光発電システムを含める)とEVの間に充電器とパワーコンディショナが備えられているのが特徴です。パワーコンディショナは太陽光発電の電力、電力会社からの電力、EVの電力を貯めたり取り出す際にバランス良くコントロールするものです。
ちなみに、充電器で住宅からEVに充電するだけの機能を有するシステムもありますが、これはV2Hにはあたりません。V2Hはあくまでも住宅とEVで電気をシェアできることが特徴で、そこに先進性があるのです。
実態調査から判明したEVの蓄電池の利用状況
上記のようなことを踏まえた上で、興味深い調査結果が発表されましたのでご紹介します。セキスイハイム(積水化学工業住宅カンパニー)による「VtoHの利用に関する実邸調査」(2018年6月13日発表)です。同社は2012年に家庭用蓄電池搭載住宅、2014年にはV2Hシステム搭載住宅を発売するなど、早くから住宅に蓄電システムを導入することの有効性に着目し、供給に注力してきたハウスメーカーです。ちなみに、「VtoH」とはV2Hと同じ意味です。
調査はV2H(EV所有)、大容量太陽光発電、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメントシステム)を搭載した47邸、64件のデータを分析したもの。なお、10.5~24kwhの蓄電容量がある車種が対象となっています。
その中に、EVの利用に関する実態を明らかにしている部分があるのですが、「EVの走行による電力利用量は住宅の電力利用量に比較して少なく、 またEVが走行しない日が 3~4 割ある」(図1)としています。
これはEVが自宅の駐車スペースに駐められていることが多く、運転されていても長い時間ではないということを表してます。このようなEV単体の利用実態を示す事例はこれまであまりなく、その意味でもこの調査は貴重で興味深いと考えられます。
停電時に十分な電気を確保し安心を提供するメリットも
EVの蓄電池の電気利用量については、「走行による利用に比べ、自宅利用が約 2.3倍となっていた」とのこと(図1)。つまり、EVはV2Hシステムにより住宅とつながることで、大容量蓄電池をより有効活用できるというわけです。また、「年間平均ではEVの蓄電池は容量の 40~60%が残っていた」といいます。このことにより、「これ(残り容量)を非常時・停電時のバックアップ電源(安心価値)として活用できる」と分析しています。
熊本地震当時の被災地の様子。建物が無事でも、水道やガス、電気などの生活インフラが使えない世帯も多かった。仮にV2Hなどのシステムがあり、電気が使えるようだったら、それだけで避難生活の短縮などができ、日常生活を早期に取り戻すことができたはずだ(クリックすると拡大します)
東日本大震災や阪神淡路大震災、熊本地震はいうまでもなく、2018年6月18日に発生した大阪地震でも、一定規模・期間の停電が発生しました。災害はいつ発生するか分かりませんが、V2Hや蓄電池があれば不自由な生活をある程度、解消される可能性があると考えられそうです。
また、EVと電力のやり取りができるV2Hは、PVにより家庭用蓄電池以上の電力が確保できる上、仮に東日本大震災の際のようなガソリン不足が発生しても移動手段を確保できるという点でもメリットがありそうです。
ここまでは、電力単価の安い深夜にEVに充電し、電力単価の高い朝夜に放電し経済メリットを出す「経済モード」という使用形態によるものです。現時点でほとんど全てのユーザーがこのモードで利用していたそうです。
FIT終了後に太陽光発電を有効利用する重要な手法
次に、太陽光発電の余剰電力をEVに充電、夜間に自宅放電し電力自給率を高めることができる「グリーンモード」ではどうなるか、試算しています。それによると、「EVの走行による電力利用量の約 1.7 倍の電力量を自宅で利用できる」(図2)としています。経済モードに比べて、グリーンモードで自宅で利用できる電力が減るのは、EVに深夜電力で充電するということが想定されていないためです。つまり、EVの充電は太陽光発電だけになり、それは天候の状況やEV不在時の時間の長さに影響されるということです。
ですが、それでもグリーンモードの約 1.7 倍は経済モードの2.3倍には及ばないものの、V2Hを導入するメリットは大いにある、というわけです。では、なぜこんな試算をするのでしょうか。それには太陽光発電の存在が大きく関係しています。
太陽光発電が現在、住宅に盛んに設置されるようになったのは補助金のほか、再生可能エネルギー固定買取制度(FIT:フィードインタリフ)による売電収入が発生する、つまり経済性が高くなったことが背景にあります。
太陽光発電システムは住宅だけでなく、メガソーラーなど大規模なものも設置されるようになった。結果として、大量の余剰電力が発生し、電力の安定供給体制を危うくすることにもつながっている(クリックすると拡大します)
ただ、FITは近々、廃止される公算が高いのです。その際に、売電に頼らない太陽光発電の余剰電力の活用が重要となり、その解決策のひとつとして、太陽光発電の「自家消費型モデル」へ転換が求められ、その際にV2Hがその大きな候補とされているのです。
例えば、経済産業省の再生可能エネルギー大量導入小委員会では、「EVや蓄電池と組み合わせることで自家消費すること」と、具体的にEVの名称をあげ、これからの方向性の一つとして指摘しています。
また、太陽光発電の普及は再生可能エネルギーを有効活用する上で大変好ましいのですが、晴天の昼間に大量の余剰電力が発生し、既存の電力会社から供給される電力を含めた電力の安定供給体制を乱す懸念が生じます。
つまり、昼間の電力を蓄電池に貯め、電力使用量が多くなる夜と朝に使用できる、ピークシフトできるものとして蓄電池、中でもEVの蓄電池を家庭でも利用できるようにするV2Hがクローズアップされているわけです。
課題は天候などによる充電機会のロスと導入コスト
ここでV2Hシステムについて一度まとめると、以下のようなメリットが生じると考えられます。・EVの電力を有効活用でき、太陽光発電をより役立てられる
・より光熱費が削減できる
・災害時に十分な電源を確保できる
・ピークシフトに貢献できる
このほか、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化に対応しやすくなる、などのメリットも指摘できそうです。
一方で、現状では課題ももちろんあります。前述したセキスイハイムの調査では、「グリーンモード運転時のEVの蓄電池稼働率を向上させるには、昼間の充電機会ロスへの対策 が必要になる」としています。
悪天候で太陽光発電の発電量が不足する、EVが昼間不在で太陽光発電から充電できないという要因で、「年間平均するとEVの約 15~35%に充電機会損失が発生する」(図3)ことが予測されると分析しています。
このあたりの課題を解消できる何らかの手法が見つかれば、将来的には「エネルギー(電力)の自給自足」ができる住宅、つまり電力会社から電気を購入しないですむ暮らしが可能になるというわけです。
このほか、そもそもV2Hは導入コストが未だ非常に高額です。大容量の蓄電池を搭載しているEVは200万円以上しますし、これにV2Hの周辺機器を設置するのは、補助金があるとしても大変な負担です。
ましてや新築住宅とセットならなおさらです。ただ、導入コストについては、将来的にEVの普及で車両価格だけでなく、周辺設備の価格も量産効果や新技術の採用で大きく下がると考えられます。
一方で、カーシェアリングや自動運転などの動向にも注視すべきです。とはいえ、今後、住まいづくりやリフォームを検討する方で、マイカーの購入もお考えの方なら、V2Hの動向にも注目しておくと良いでしょう。