丁寧に、濃密に役を自分の中に落とし込む作業
――『ビッグ・フェラー』のカンパニーはかなり早い時期からお稽古に入られたそうですね。
浦井
そうなんです。1月に勉強会と言う形でスタートしました。翻訳の小田島恒志先生や演出の森新太郎さんとキャストとでまずは重要なポイントの1つになる「IRA」についてしっかり知ろう、自分の中に入れて行こうという事で始まったテーブル稽古だったんですが、すぐに白熱しましたね。沢山の資料を読み、時にディスカションしながら作品の世界に踏み出しました。
これまで普段の生活で「IRA」に関して深く考える機会はなかったのですが、稽古が進む中、4月の終わりに元・幹部が逮捕されたとニュースで見まして、何だかとても不思議で複雑な感情が自分の中に湧いてきたりもしました。その瞬間、僕はどこかでマイケルの気持ちになっていたのかもしれないです。
――演出の森さんとの現場はどんな雰囲気ですか?
浦井
ここまでしっかりした演劇作品で組ませて頂くのは初めてで、以前から深くご一緒できればと願っていましたのでとても嬉しいです。とにかく戯曲をしっかり読み込む、自分の中に落とし込んでいくという作業を繊細に、丁寧にやられる方なんですが、立ち稽古に入ると最低でも稽古開始の1時間半前には演出家席に座っていらっしゃるんですね。で、仮のセットが組まれている稽古場をずっと見つめているんです。そこで何かアイディアが浮かんだり、それまでの演出と違う事が降りてきたりすると「昨日までの稽古は全て忘れて下さい」……と。そこから全く新しい世界が作られて行ったり……本当にタフでパワフルな方だと思います。
(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)
――マイケルは劇中、20代から50代までの姿で登場しますが、1人の人間を4つの年代に渡って演じるという点については如何でしょう。
浦井
初めての経験で……とても難しいです。ただ、今の時点(5月初旬)ではあまり役の年齢に捉われず、まずは戯曲の内容をしっかり自分の中に落とし込んでいく事から心掛けるようにしています。
僕が演じるマイケルは最終的に54歳として登場するんですが、丁度今回の舞台監督さんが54歳なんですね。それでこの前の稽古の時に、森さんから椅子に座ったりそこから立ったりという動作について「もっとゆっくり」 「もっと足を曲げる感じで」って演出が入ったら舞台監督さんが「俺はそんなに年を食ってねえぞおー。」って!(笑顔)。もうどっちを信じていいのか分からなくなって一瞬わたわたしちゃいました(笑)。初日の幕が開く時には僕なりのマイケル・54歳が出来上がっている筈です!
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