保健師/保健師とは

口蹄疫と保健師(1)

家畜の感染病にも保健師は間接的に関わることがあります。2010年、宮崎県でおこった口蹄疫を例に、どのような仕事をしたのかご紹介します。

西内 義雄

執筆者:西内 義雄

保健師ガイド

防疫に携わるのも仕事

保健師が関わる仕事には、さまざまな感染問題も入ります。人だけでなく、動物に対しても、間接的に関わることになることがあるのです。

たとえば口蹄疫問題。口蹄疫とはウイルスが原因で、牛や豚、山羊などがかかる病気で、子牛などはそれで死に至ることはあっても、親は発熱や水ぶくれ程度で死亡率は数%というものです。人に感染することはなく、仮に口蹄疫にかかった牛や豚の肉を人が食べたとしても問題はないといわれています。しかし、同じ牛や豚への感染力は非常に強いため、病気が発見されると、
  • 口蹄疫が発生した農場の家畜を殺処分して埋却し、農場を消毒
  • 口蹄疫が発生した農場周辺の牛や豚の移動を制限
  • 発生農場から半径10km以内における移動制限(生きた偶蹄類の家畜やその死体等の移動を禁止、と畜場及び家畜市場の閉鎖等)
  • 発生農場から半径10~20km以内における搬出制限(生きた偶蹄類の家畜の搬出、制限区域外への移動禁止、と畜用以外の家畜を入場させる家畜市場の開催を中止等)
  • 県内全域へ消毒薬を配布し、散布
  • 移動制限区域内に出入りする車両を消毒するための消毒ポイントを設置し、消毒を実施
  • 発生農場と人や物などの関連(疫学関連)があった農場の確認
  • 他の都道府県における牛豚飼養農場の緊急調査を実施(これまで宮崎県以外での口蹄疫の発生は確認されていません)
  • 移動制限区域内のワクチン接種による感染拡大防止
*農林水産省HPより

のような対応が取られます。

異常事態のなかで

殺処分作業のための重機や車両

殺処分作業のための重機や車両

2010年、不幸にも宮崎県南部では口蹄疫が発生してしまい、そのエリアにあった5市6町の農場は飼育していた牛や豚たち家畜、約29万頭を殺処分しています。なかでも川南町は17万頭近い殺処分数で、甚大な被害を受けています。農場経営者の精神的ダメージは計り知れないほど大きく、町の保健師たちは心のケアをすべく活動をしようと考えていましたが、実際は別の仕事で連日忙殺された経緯があります。

それは、殺処分のために全国から町にやってきた獣医師、保健所・JA職員ら関係者数百人の健康管理です。というのも、これだけの数の家畜を殺処分するのは、とてつもなく過酷な作業になるからです。

家畜の殺処分は、ネットゲームのようにボタンひとつ押せば済むものではありません。移動させ、必要な薬剤を投与しようとしても、その異常な雰囲気を嫌がって暴れます。とくに牛は体が大きく、作業中に蹴られて大怪我をすることも頻繁にあり ました。

ケガや薬剤による皮膚疾患が多発

ケガや薬剤による皮膚疾患が多発

感染を他に広げないため作業者は防護服を身にまとっていたため、熱中症も起こりますし、殺処分や消毒用の薬剤が皮膚や目にかかれば、治療も必要になります。大切に育ててきた家畜を殺されてしまう農場経営者のメンタルはもちろんのこと、罪もない大量の家畜を自分の手でどんどん処分していかねばならない作業者のメンタルも非常にきついものでした。

かといって、殺処分の現場で保健師ができることはほとんどありません。

町のために働く人を守りたい

そこで川南町の保健師たちは、まず自分たちの町のために全国からやってきてくれた人々の健康を守ろうと、早朝から殺処分に向かう人たちに、出動前の血圧チェックや問診などを実施。さらに、
  • 防護服は二重に着用するので、どの順番で重ねればいいのか
  • 長靴を履くときに一枚目の防護服は中に入れ、2枚目は外に出すこと。
  • テープでの補強方法
  • に至るまで関係者に話を聞き、絵に描いて貼り出しました。薬剤も肌に触れると害のあるものばかりなので
  • 薬剤名と注意点
  • 皮膚に付着した場合の対処法
など注意喚起しながらチラシも配り、作業者の集まるテントなどに貼りだしていきました。

口蹄疫と保健師(2)へつづく

画像協力:宮崎県川南町役場

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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