無理に働かせないのも仕事

2010年4月から7月の間、宮崎県川南町には全国から獣医師、保健所・JA職員ら関係者数百人が集まり、口蹄疫対策として家畜の大量殺処分が行われていました。その作業は過酷そのもので、二重に着込んだ防護服は作業者たちの体力を奪い、熱中症も続出。殺処分のための薬剤で皮膚や目にダメージを受けたり、暴れる牛に蹴られて大怪我をする者も出ています。

作業に向かう人々の健康チェック

作業に向かう人々の健康チェック

それでも、さらなる感染を防ぐため作業は続けなければなりません。作業者は近隣に泊り込みながら、早朝から働きづめの状態でした。川南町の保健師たちは、少しでもその役に立ちたいと、毎朝7時から夜20時くらいまで保健センターに詰め、朝は各自の健康チェック。日中は現場からの緊急要請の対応と対策本部との折衝を続けました。

とくに朝の健康チェックは大切で、異常事態のなか、身を粉にした働く作業者のなかには血圧が200を越えていても「大丈夫、大丈夫。こんなことで休んでいられないから」と使命感で現場に向かおうとします。それを何とか説き伏せ、休んでもらうのも保健師の仕事でした。

労災の申請用書類作りも

また、ケガをした人たちは労災の対象になるため、その書類作りに欠かせない各種のデータ(日時や被害状況、治療内容など)をまとめる作業も並行して行っています。夜は夜で、ヘトヘトになって戻ってくる作業者たちの出迎えと健康相談。

ある作業者は、そのときの保健師たちについて「いつも声をかけてくれて出迎えてくれたことでどれだけ元気が出たことか」と、振り返っていたのが印象的でした。実際、自分の高ぶった気持ちを抑えたかったのでしょう、戻ってくると保健師と雑談をしたがる人も少なくなかったといいます。作業が一段落したのは7月の中旬のことでした。

県保健師の活動

口蹄疫問題で奔走したのは町の保健師だけではありません。県の保健師たちも、4月から県内各保健所と精神福祉保健センターに「こころと身体のケア」相談窓口を設置するなどしています。しかし、この時期の農家は自分がすべき仕事で精一杯で、相談はほとんどありません。かといって、個別訪問をするわけにもいかず、6月になって少し落ち着いたのは見計らい、新たな調査を実施しています。

方法は、電話による聞き取りです。これも大変難しい作業で、いきなり電話をしたところで、すぐに受け入れてもらえるはずがありません。そこで各地の防災無線で調査が始まることを報せ、川南町をはじめとした被害地域の農家1100戸への記録票を作成していきました。相談内容は当初予想していたものより多岐にわたり、保健関連だけでなく
  • 今後の生活のこと
  • 経済的な問題
  • 家族のこと
など、あらゆるものが持ち込まれました。保健師サイドは健康支援を目的に調査をしていたものの、一方では自治体職員でもあるため、こうした相談を関係各所にしっかり繋ぐ役割も担っていました。なかには、保健師が聞いたからこそ引き出せた話もありました。

町の再生に関わるのも保健師

電話による調査結果は、すぐに各市町に送られています。地元の保健師をそれをもとに、各農家への個別訪問を実施。相手の顔を見て体調をチェックしながら、精神的な支援が必要な人にはさらなるフォロー。新たに寄せられる行政への要望は、前述の対応と同様、役所に持ち帰り、関係部署に伝える役目も担っていました。

保健師というのは健康を守る人との印象があると思います。しかし、いざ何かが起これば、町の職員として、さまざまなことに関わっていくことになります。川南町のある保健師は「地域の人々が町を支えていこうという思いをサポートすることも自分たちの役目なのだなと実感しました」と語っていました。

画像協力:宮崎県川南町役場
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